「ミーナ、赤くなる」
「あうう……また負けたぁ……」
村の広場の片隅で、ミーナがしゃがみ込んでいた。
今日も子どもたちと鬼ごっこをしたけど、全然勝てなかったらしい。
「足……ミーナ、みんなよりちっちゃいから、追いつけないよぅ……」
しょぼんと縮こまって、麦畑の方をぼんやり見つめる。
そこに——風にたなびく、あの“赤いマント”。
「……!」
ミーナの目に、ひらめきの光が灯った。
「赤は、さんばいはやい……」
兄の言葉を、ミーナは思い出していた。
———
「赤は、パワーとスピードの象徴だ。赤いのは3倍速い」
———
「……だったら、ミーナも赤くなれば……!」
数分後、俺の元に現れたミーナは、
かかしのマントを肩に巻いていた。
「兄っ! ミーナ、これ借りる!! ちょっとだけ!!」
「お、おい、それはかかし用だって……!」
「ミーナ、今日の鬼ごっこ、勝ちにいくっ!」
赤い布をひらひらさせて、勇ましく走り出すミーナ。
……かわいさが3倍になっただけでは?
—
その後の鬼ごっこで、ミーナは風のように駆け抜けた(ように見えた)。
「ミーナちゃん、なんか今日……速くない!?」
「マントか? あのマントのせいか!?」
「ちょ、ずるい! オレも赤いのつけるー!」
畑用の染料が村の子どもたちにバカ売れしたのは、また別の話。
—
日暮れ、マントを返しにきたミーナは、誇らしげに胸を張っていた。
「兄、赤いのすごい! ミーナ、さんばいかっこよかった!!」
「……うん。お前はもう、伝説のレッドミーナだな」
「れっどみーな! かっこいい〜〜!!」
その日から、ミーナはちょっとだけ“かけっこ番長”として村で知られるようになった。