「緋陽草の芽、そして始まりの市──王都を照らす芋の光」(後半)
王都エルデン──王宮裏庭。
「お兄ぃ~~っ!」
ミーナが駆け寄ると、ルークはもう我慢できないとばかりに彼女をむぎゅっと抱きしめた。
「ミーナ~~~!! 足りなかった……ミーナ成分が圧倒的に足りなかった……!!」
「ふにゃ!? え、ええっ!? どうしたの!?」
「畑がさ……うまくいかねぇんだ。育たねぇ、土が泣いてんだよ。俺も泣きそうでさ……いや泣いたわ」
「ええ〜!? でも、じゃあ……うちの芋、持ってく? 緋陽草も咲いてるし!」
ミーナはそう言って、裏庭の芋畑を指差した。
そこには、芋の葉の間に、赤く小さな花──緋陽草が風に揺れていた。
「うん……これだ。お前の芋と花が、俺を支えてたんだ。間違いねぇ」
ミリーナが静かに歩み寄り、そっと芋畑の土をひと握りする。
「……まるで、ここだけ別の空気が流れているみたい。この土と芋、そして……ミーナちゃん。あなた自身も、希望なのね」
「えへへ……ほめられた〜!」
ルークは決意を込めて妹を見つめる。
「──ミーナ、ベルナンに一緒に来てくれ。お前がいないと、本当にダメかもしれん」
「えっ……わ、わたしが!? え、うんっ、いいよ! 行くーっ! お兄のために、いもバッグにいっぱい詰めてくね!」
猫たち:「にゃー!(遠征メンバー追加だ!)」
ミーナはリュックいっぱいに芋を、そして木箱に緋陽草の苗を詰め、麦わら帽子を被り直した。
王妃がそんなミーナの肩をそっと抱く。
「行ってらっしゃい、ミーナちゃん。王都の希望も、あなたに預けるわね」
「うんっ! ぜーったい、ベルナンも笑顔にするよ!」
──こうして、王都の小さな畑で育った芋と緋陽草、そして笑顔の妹が、再び旅立つ。
ベルナン──再生農地。
「……土の匂いが、変わってきた。空気まで軽い。これって……」
「ミーナの“ぬくもり”だよ。あの子と芋は、セットで魔法だからな」
「うわ〜! この土、ふかふかだ〜! おいも、きっとよろこぶ〜っ!」
数日後──
「発芽しました! 緋陽草、根付きました!」
「芋のつるもすごい勢いで伸びてます!」
「ミーナちゃん、こっちこっち! 水やりお願い!」
「はぁ〜いっ! にゃーたちも、がんばろーっ!」
ミーナが笑うたび、畑がやさしく揺れる。
そして──その地に“命”が戻ってくるのを、人々は目の当たりにしていた。
──“小さな命”が、国を変えようとしている。




