「緋陽草の芽、そして始まりの市──王都を照らす芋の光」(前半)
ベルナン郊外・再生農地の一角。
「……やっぱ、ダメか」
ルークが鍬を突き立てたまま、空を仰いでいた。
見渡す限りの畝。だが芽吹いた苗は少なく、土もまた、どこか冷たい。
「肥料は適正。水も撒いた。人の手も……足りてるのに……なんでだ……」
作業に立ち会っていた農政官たちも、沈黙する。
──野菜が、育たない。
芽が出ても萎れ、根が腐り、実がならない。
ルークは帽子を外し、頭を抱えた。
「……クソっ……これじゃ……」
そして、次の瞬間、叫んだ。
「ミーナ成分が足りねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「……ミーナ、成分……?」
セレナが固まる。クロが耳をふさぐ。農政官たちがざわつく。
「いや、真面目な話! あいつの水やりとか、芋の歌とか、変な踊りとか……あれ全部、土の“気”を変えてたんだよ!!」
「……えーと、つまり“癒し効果”?」
「それだ! 精神波的なやつ! 土が拗ねてんだよ、きっと!」
王族たちがその騒ぎを聞きつけてやってきた。
第一王女ミリーナが、ルークの呆然とした顔を見て、ふと口を開く。
「……緋陽草。あの花があれば……」
「……緋陽草、だと?」
「ええ。確か、心を癒す力があると文献で読んだことがあるわ。
……ベルナンでも昔は咲いていたけれど、干ばつで全滅したはず」
その言葉に、レイナが息を呑んだ。
「ミーナ……あの子、王都で……緋陽草を咲かせていたわ。しかも……芋と一緒に」
「マジか……!」
ルークの目に、ふたたび炎が灯る。
「ミーナの緋陽草──あれが、この土地に必要な“最後のひとかけら”なんだ……!」
すべての希望は、王都の小さな裏庭に咲く、ミーナの芋畑へと繋がっていた──
(後半へつづく)




