「姉妹と土と──そして王女の誓い」
ベルナン郊外の農地跡地。朝靄の中、ふたりの王女がそろって土の前に立っていた。
第一王女ミリーナと、(元)第五王女レイナ。
それぞれ違う道を選びながらも、今、ふたりの手は同じ鍬を握っている。
「……これが、畑の匂いなのね」
ミリーナはしゃがみ、土を手に取る。こぼれるような乾いた土が、指の隙間を抜けていく。
「まだ痩せてるけど……きっと、蘇ります」
レイナが隣に座り、土の感触を確かめるように撫でる。
「民の命を繋ぐのは、剣や冠じゃない。──この手の泥なのね」
ミリーナの言葉は、かつての“王族”の価値観を静かに覆していた。
そこへ、ルークが笑いながら近づいてきた。
「王族の皆さんがこうして畑に立たれるとは……この地にも、本当の春が来るかもしれませんね」
「ルーク、からかわないで」
「でも……本当の“始まり”かもしれないわ。王族が泥を踏む、そんな時代の」
ミリーナは立ち上がり、周囲を見渡す。
遠くでは、仮設の畝をつくる兵士たち。
水路を掘る青年団。
そして、鍬を振るう老農たち。
それぞれの動きが、まるで国の鼓動のように重なりあっていた。
「王族が畑に立つなら、言葉ではなく“手”で語らねばなりませんわね」
そう言ってミリーナは、鍬をもう一度しっかりと握った。
「レイナ。民に寄り添い、共に汗をかく“王”になりましょう」
「はい、姉上。私は、ルークに教わった“畑の心”を信じます」
ふたりが一歩、土へと足を踏み出した瞬間──
その空気は、確かに変わった。
──姉妹が土に触れた日。
それは、ベルナンの再生が本当の意味で“動き出した日”として、後に語り継がれることになる。




