「赤いかかしと、兄のこだわり」
「よーし、ミーナ。今日は“新かかしさん”を作るぞ!」
「うんっ!」
朝から張り切って材料をかき集める俺とミーナ。
藁に棒に古布、それに壊れた旧かかしのパーツも少しだけ残しておく。形見代わりだ。
「兄ぃ、顔はどうする? やっぱり笑ってるのがいい?」
「そうだな。今回はちょっと凛々しい感じにしてみようか。あと……」
俺は作業台から“例のもの”を取り出した。
「じゃーん。赤い染料!」
「……ん?」
ミーナは一瞬、理解が追いつかず固まった。
「兄、それって……赤い布?」
「違う。これは“戦うかかし”のための、性能強化アイテムだ!」
「???」
俺は真剣な顔で説明を始めた。
「ミーナ、よく聞け。赤は、パワーとスピードの象徴だ。俺の前の世界では、“赤いのは3倍速い”って言われてたんだ」
「さんばい……?」
「そう、3倍だ。つまりこの赤いマントをつけたかかしは、通常のかかしの三倍、カラスを威嚇できる。
しかも風になびいてかっこいい!」
「……兄、それ、ほんと?」
「ほんとだ。たぶん。……気持ちの問題だ」
ミーナは少し考えてから、ポツリとつぶやいた。
「ミーナ、あんまりわかんないけど……兄が楽しそうだから、いっか!」
そしてにこにこしながら、赤い布を持って走り出した。
「ミーナ、かかしさんにマントつけてくるー!」
俺の作戦(?)は成功だった。
—
その日の午後、畑にはひときわ目立つ赤マントのかかしが立っていた。
風にたなびくその姿は、まるで畑の守護騎士のようで——
ミーナは胸を張って言った。
「これで、カラスなんかに絶対負けないっ!」
……それから村では「なんかグランフィード家の畑、近づきにくいよな」と、カラスだけでなく、子どもたちにもちょっとした噂になったという。