「国境を越えるか──ベルナンとの交渉開始」
王宮の応接間。
対面したベルナンの使節団と王国側の代表。その中央には、農民服のまま座るルークの姿があった。
「──確かに、うちの畑のトマトや野菜が、ベルナンでも育つかもしれない。でも……俺は農民だ。外交とか国策とか、そっちはさっぱりで」
ルークの言葉に、王国の宰相が苦笑いしながらフォローを入れる。
「我が国とて、すぐに結論を出すつもりはありません。ただし──彼の畑は、王都の未来にも関わる。慎重に、しかし丁寧に対応させていただきます」
「……感謝を。いずれまた、返答をいただければ」
使者たちは頭を下げ、一度その場を辞した。
数日後:ルークの畑にて
「……ベルナンか……。行って、土を見るだけなら、まぁ……」
ルークは鍬を持ちながら、土の手触りに集中しているようで、思考はどこか遠くを見ていた。
レイナは息子の背を見つめ、そっと微笑む。
(アベル……私たちの子は、もう自分で“行き先”を選べる年になったのね。……ありがとう、ルーク)
王都──裏庭のいつもの場所
「おいもやさん、いらっしゃ〜いっ!」
帽子をななめにかぶったミーナが、今日も焼きいも屋さんごっこを絶賛開催中。
「はい、王子さまもおひとつどーぞっ!」
「い、いや……私は王子では……」
「えへへ〜でも、カッコイイから〜!」
対応していたのは、まさかの近衛騎士団の団長。
王族に仕える剣士が、焼きいも片手に固まっていた。
「団長……顔が赤いですぞ……」
「こ、これは……ちがっ……いや、あの、なんだろうこの安心感は……」
「ミーナ様の破壊力、恐るべし……!」
騎士団、撃沈。
そして──
王都の会議室にて、ルークは静かに口を開く。
「行くよ。ベルナンに」
一同が静まり返る。
「俺が“やれること”なんて、限られてる。けど……できるなら、誰かの畑が、ちゃんと実ってほしい」
レイナのまなざしが、やさしく息子を見つめる。
「……うん、ありがとう。ルーク」




