「王立菜園プロジェクト始動──ルークの畑と、ミーナの芋と、王都の未来」
:畑、はじまりの土
王立菜園の一角、かつては花卉栽培に使われていた土が広がっていた。
「……これは……表層が固くて水はけも悪い。あと、虫がいねぇ……」
ルークはくわを持ちながら、いつもの農家モードに切り替わっていく。
一見、やる気なさそうで口調もゆるいが、目だけは真剣だった。
「なんだこの野菜……? これは土に合ってなかったんだな。うん、替えよう。全部」
それを遠巻きに見ていた王都の園芸担当官たちは、口をぽかんと開けていた。
「陛下……彼は、本当に“ただの農民”なのでしょうか……?」
「見れば分かろう。──あの男、土と話しておる」
静かに、けれど確かに。
ルークの農業スキルが王都の地に“根”を下ろしはじめていた。
:おいもとミーナと猫たちと
そのころ、王宮の裏庭──
「おいも、だいぶ芽がでたねーっ♪」
ミーナは猫たちと一緒に、小さな畝に植えたお芋をうきうきと観察中。
「お水あげたから、きっと、もぐもぐぐんぐんするんだよー!」
猫たち:「にゃー(語彙力ぅ)」
そうだ、緋陽草も植えなきゃ
ミーナが芋畑にお水をやると、どこからともなく王妃様が現れた。
「ふふ。ミーナちゃん、今日も来てくれて嬉しいわ。……あら、土の香りが……豊かね」
「うん! お兄がね、こっそり“まほうのたいひ”をくれたの! においはちょっと変だけど……おいもがよろこぶんだよー!」
王妃はそっと笑みをこぼし、ミーナの麦わら帽子をなおしてあげた。
「ミーナちゃん……貴女のような子が、王宮に来てくれて、私はうれしい。
花も、芋も、笑うのね……ほんとうに、やさしい子」
ミーナ:「ふぇ……? えへへ、なんか照れる〜〜!」
猫たち:「にゃー(天使か)」
っていうか、あれもしかして “緋陽草”!?
この子なんてもの植えているのかしら…ミーナ恐ろしい子
:ささやかな収穫、はじまりの香り
王立菜園では、ルークが試験的に植えた“王都にない野菜”が芽吹きはじめていた。
・ミニトマト(秋実り品種)
・赤しそと甘やさいのハーブセット
・そして、農家の技が詰まった──秋限定“スイート根菜”
「……なんか、全部そろそろ“喫茶向け”だよな……。いや、別に狙ってないし。ぜんぜん」
ポツリと呟くルークの背中に、セレナが差し入れの麦茶を持って現れた。
「ふふふ……あら、お兄さん。だいぶ“王都向けの味”に慣れてきたんじゃない?」
「慣れてねぇよ。ミーナが楽しそうだから付き合ってるだけだし……。
あと、土いじってる方が……余計なこと考えなくてすむし」
セレナはその言葉に微笑みながら、ふと王妃が裏庭で誰かと芋を見ている姿を目にした。
「……やっぱりこの兄妹、ちょっと“中心”になってきてるのかもね」




