「レイナと王の記憶──“姫”であった母、静かなる謁見」
:王都・謁見の間──静かに明かされる名
王都の王宮、荘厳なる謁見の間。
静まり返った空間に、緋色の絨毯を踏む音が、しずしずと響いた。
「よくぞ参られた、グランフィード家の皆よ」
玉座に座するのは、穏やかな瞳をした年配の王。
だがその目は、レイナを見た瞬間、一瞬だけ深く揺れた。
「……そなたは、かのベルナンの……」
「今は、農夫アベルの妻としてまかりこしております。
──レイナ・グランフィード、とお呼びくださいませ」
レイナは静かにひざをついた。
王はしばし沈黙し、そして軽く頷いた。
「……良かろう。余は詮索せぬ。
だが、貴女のご子息──ルーク殿の農業適性、すでに王都に伝わっておる」
ルークは緊張しながらも前に出る。
農作業着姿をきれいにしただけの格好。どこか、場違いな感覚すら覚える。
「国境に近い東部に、今も“冷夏による不作”の噂が流れておる。
──君の力を、試してみたいのだ」
ルークは一瞬、母と父の顔を見た。
レイナは、ただ静かにうなずいた。
「……俺は、畑のことしかわかりません。けど……それで誰かが困ってるなら、できることは……」
王は微笑を浮かべ、座り直す。
「よい答えだ。まずは、王都の“王立菜園”を任せよう。
君が何を育て、何を生むか──見せてもらうぞ」
:庭園のミーナ
一方そのころ、王宮の裏庭──。
「わ〜〜っ、ここぜんぶ、おはな! すっごーい!!」
ミーナは猫たちとレイナと一緒に、王妃様の庭を冒険中。
「ミーナ、それは……そ、それは貴族様の、特別なバラ園……!」
「いいにお〜い♪ にゃふぇも、くんくんして〜♪」
猫たちも花の間をふわふわと歩く。
「ふふふ……君が、ルークの妹さんかしら?」
優しく声をかけてきたのは、お忍びの王妃様。
たおやかな雰囲気で、ミーナの頭を撫でる。
「うにゃ!? ミーナねー、おいもがすきなのー!」
「おいも……ふふ、素敵ね。では、この花壇の隅っこ、貸してあげようかしら? おいも、育ててみる?」
「ええっ! いーのー!?」
猫たち:「にゃー(認可おりたにゃ)」




