「王都・応接室にて──ルークと“家族の記憶”」
焼きいもの煙がようやくおさまった午後。
ルークは、王宮の一角にある静かな応接室に通された。
そこにいたのは、一人の壮年の貴族。
深い紺のローブをまとい、銀の飾りが光る。
その男は、ルークの顔を見るなり、小さく目を見開いた。
「……まさか、アベルの……いや、“ルーク”か?」
「……はい。父の名前をご存じで?」
男はしばらく黙ったあと、ゆっくりとうなずいた。
「私はクラウス=グランフィード。
アベルの兄だ。つまり、君の伯父になる」
クラウス伯父とルークの会話
「父は、貴族の三男だったと聞いています。でも、それ以上のことは……」
クラウスは、窓の外を眺めながら語り始めた。
「アベルは、昔から変わっていた。
剣術にも魔術にもあまり興味を示さず……ただ“畑”に夢中だった」
「……らしいですね」
「だが、私には分からなかった。家の名より、土地と実りを選ぶなんて……
だから、勝手に村へ行った時は腹も立ったよ。だが、今は違う」
ルークは静かに目を伏せた。
「……父は、正しかったのかもしれませんね。
少なくとも、僕たちは幸せだった。あの農場で。ミーナと、母と、みんなと」
クラウスの口元がふっと緩んだ。
「そうか。ならば……」
そして彼は、封をされた一通の文をルークに渡した。
「これは“王からの正式な要請”だ。君の母、レイナ=ベルナンを、王都へ招くというもの」
母、王都へ──家族の再び交差する時間
数日後。王都の門の前。
馬車から父アベルが降り立ち手を差し伸べながら
柔らかな緑のローブに身を包んだ女性が、馬車から降り立つ。
金の髪を風に揺らし、静かな微笑みを浮かべたその姿は、まさしく王族の品をたたえていた。
「母さん……」
「おまたせ、ルーク」
ルークの母、レイナ=ベルナン。
隣国ベルナンの第五王女でありながら、かつて愛を選んで祖国を離れた女性。
今、再び歴史の渦に巻き込まれようとしていた。
そのころ──ミーナ、やっぱり元気です!
「お兄ー! 猫たちと庭で“いも掘りごっこ”するよー! 王宮の花壇でもできるかなー?」
「それはやめろ!? 花壇は王妃様の……っ」
「セレナちゃーん、おやつある? にゃふぇがふて寝しちゃった!」
「ふふっ、はいはい。今、特製の“いもタルト”持ってくるね」
ミーナは相変わらず、どこまでも元気で。
そして周囲は、そんなミーナを中心に、やさしく、少しずつ変わっていく。




