「王都と焼きいもと、赤い宝石──はじまる“いも外交”!」
王都に到着した朝は、思いのほか静かだった。
白い石畳の道。歴史ある建物の並ぶ大通りを、
ルークの荷馬車が、焼きいもと猫たちを満載して進む。
ミーナはといえば、もう完全に“外交モード”。
「猫の皆さん、ならんでください! にゃふぇ先頭ね! 今日は焼きいもで世界を救います!」
にゃふぇ「にゃふぇー!(了解にゃ!)」
猫たちは妙に礼儀正しく、整列して歩いていた。
なぜかおそろいの黄色いバンダナを首に巻いている。
「これ、誰が用意したんだ……?」
ルークは、もはや何も聞かないことにした。
王宮の庭にて──ミーナ、焼きいも外交始動!
招かれたのは、王宮の一角にある中庭。
この日は、各地の領主や使節たちが集まる“交流茶会”という名目だったが――
すでにミーナが勝手に「秋の味覚フェス」に変えていた。
「はーい! とまとジュース少なめ、焼きいも多めのひと、こちらですー!」
「お兄、炭が足りないー! さつまいも追加お願い!」
「セレナちゃーん、お客様にスプーンとおしぼり配って~!」
「なぜスプーン!?」
ルークが必死にツッコむ中、
王都貴族たちは妙に落ち着いた様子で、焼きいもをうっとり食べていた。
「……うまい。なんだこれ、外は香ばしく、中は蜜のようにとろける……」
「この“赤い宝石”のようなとまとジャム、どこで作っているのかしら?」
一人、また一人と噂が広まり、
気づけば長蛇の列が、焼きいも窯の前にできていた。
セレナとルーク、ひとときの静けさ
「まさか、本当に王宮で焼きいもすることになるなんて……」
「僕も、夢にも思わなかった……」
二人は庭の隅でそっと休憩しながら、賑わうミーナたちを眺めていた。
「でも……いいわね。
ミーナちゃんの焼きいもって、食べた人をやさしくする。
あれ、きっとルークくんの畑の力もあるんでしょ?」
「……どうだろう。でも、そうだとしたら、少しは役に立ててるのかもな」
そのとき、ミーナの高らかな声が響いた。
「にゃふぇー! トマト爆発させるよー! みんな離れてー!」
「いや待て、トマトは爆発させるものじゃ──」
「バァァァン!!」
中庭に、香ばしいトマトの匂いと、ちょっぴり焦げた甘みが広がった。
王都の人々は、確かに何かを感じた。
やきいも。とまと。猫。そして、妹の笑顔。
一見ふざけたように見える騒動の中に、
ほんの少しの希望と、やさしさと、何かを変える力が、確かに存在していた。
王都の使節のひとりが、呟いた。
「……この子たちは、未来を連れてきたのかもしれないな」




