「王都へ──ルークの決意と、焼きいもの香り」
夜、空は澄んでいた。月が静かに村を照らす。
ルークは畑の端に腰を下ろし、深く息を吐いた。
手には、母・レイナから渡された王都からの正式な依頼状。
内容はこうだ──
「隣国ベルナンにて、深刻な凶作が発生。
貴殿の農業適性について、王都にて協議したい。できれば本人の視察来訪を願う。」
迷っていた。
ただの農家だ。ミーナと、にゃふぇたちと、土をいじっていたい。
けれど──
「……ベルナンは、母さんの生まれた国なんだよな」
木の陰からそっと近づいてきた母・レイナが、静かに微笑む。
「心配してるのね、ルーク」
「……うん。母さんの気持ちも、王都のことも、ベルナンも。何も知らなかったけど……知ってしまったからには、黙ってるわけにいかないよ」
「無理に背負わなくてもいいのよ?」
「でも、少しは背負ってみたい。俺のやり方で、できるだけのことをしたい。
ミーナや村のみんなの暮らしも、守りながら──」
母はただ、やさしく頷いた。
翌朝:猫たち騒がしく、ミーナは元気いっぱい
「にゃふぇー! 帽子かぶってー! 王都行くんだからーっ!」
王都行きの準備を始めたルークに、ミーナは大はしゃぎ。
猫たちも、**“正装っぽい何か”**を身にまとい、そわそわしている。
「ねー、お兄ー、王都で焼きいも配ってもいい? すっごい喜ばれるよ、ぜったい!」
「……あのさ、外交ってそういうのじゃないんだけど……」
「だいじょうぶっ! にゃふぇも“いも部”だから!」
にゃふぇ「にゃふぇ!(いも部名誉会長にゃ)」
ルークは思わず笑ってしまった。
「……まったく、俺が悩んでたのがバカみたいだな」
「じゃ、王都に焼きいも持ってくよー!」
「お、おう……!」
秋の村と、ほんの少しの未来へ
空は高く、風は少し冷たくなってきた。
ルークは荷馬車の荷台に、ミーナと猫と、自作の焼きいも用石窯を載せる。
荷台の隅には木箱に大切に詰められた緋陽草の苗が
そして畑を見やると、やっぱり……トマトが、まだ、実っていた。
「……なんでだよ、もう秋だぞ……」
でも、いいか。
**ミーナの“秋の味覚外交”**が、何かを変えるなら──
兄として、農家として、ミーナの“背中”くらいは、そっと支えてみようと思った。




