「かかしと、忘れられた約束」
「あ、ミーナちゃん! おにごっこしよー!」
「えっ、い、いまお仕事中……だけど、ちょっとだけなら……!」
麦畑の中で、手を振る村の子供たち。
ミーナはしばらく迷っていたが、くるりと俺を見上げて、ちょっとだけ首をすくめる。
「兄、ミーナすぐ戻るから! かかしさんのこと、ちょっとだけ、ちょ〜っとだけおやすみ!」
そう言って、ふわふわの金髪をなびかせながら走っていった。
……嫌な予感がした。
──数時間後。
「うそ……っ、そんな……っ!」
ミーナの叫び声が畑に響いた。
かかしは、無惨な姿になっていた。
藁は引き裂かれ、頭にしていた麦わら帽子は風に転がり、棒も半分に折れていた。
「あああぁぁぁぁ! かかしさぁぁん!!」
泣き叫ぶミーナ。
その肩を、俺は黙って支えた。
「ごめんなさい……っ、ミーナ、ちゃんと守るって……がんばるって言ったのにぃ……!」
畑の脇には、黒い羽根が数枚落ちている。
どうやらカラスの集団にやられたらしい。
「かかしさん、怒ってないかな……呪われないかな……」
「呪わないよ。……でもな、ちゃんと謝らないといけない」
「うぅぅぅ……兄ぃ〜……ミーナ、最低だぁぁ〜〜……!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、ミーナは壊れたかかしにぺこぺこと頭を下げ続けた。
その姿があまりに必死で、怒る気もなくなる。
「よし、じゃあ——ミーナ。一緒に、新しいかかし作ろうか」
「……え?」
「今度はミーナ専用。名前もつけて、絶対壊れないやつ。カラスが見たら逃げ出すくらい最強のやつな」
「……うんっ!」
涙を拭いたミーナの顔は、まだぐちゃぐちゃだったけど、
その瞳はまっすぐ俺を見ていた。
—
こうして、
“ミーナとかかしの友情物語 第二章”が、始まったのだった。