「緋陽草の奇跡と、“母の名を継ぐ者”──王都が動く、でもミーナは焼きいもを焼いている」
王都からの手紙は、朝露が乾く前に届いた。
封蝋には、金の双獅子──王家の正式な紋章。
ルークが手紙を開いたその瞬間、後ろからひょっこり顔を出すミーナ。
「お兄ー、それおやつのレシピぃ? だったらミーナ、にゃふぇと焼くー!」
「いや、これは……そうじゃなくてだな」
ルークの声に、ミーナは首をかしげる。
手紙の内容は、極めてまじめなものだった。
──“緋陽草”の発芽を受けて、王都は正式にグランフィード家の来都を要請する。
──可能であれば、ベルナン王家ゆかりの者──第五王女レイナ殿の子息・ルーク殿の意志を問いたい。
それは、かつて王宮を出た一人の姫の、その血を引く者への呼びかけだった。
ルークはゆっくりと手紙をたたむと、くるりと妹の方へ向き直った。
「なあミーナ。もし、お兄が王都へ行かなきゃならなくなったら、どうする?」
ミーナは「んー」と目をぐるぐる回しながら考えた末に、
「いっしょに行くー! それで、そこで焼きいもする! 王都の人って、焼きいも食べたことあるのかなぁ?」
「……焼きいもな」
「あと、とまと焼きいももまたやろうね! あれ、たぶん世界征服できるよっ!」
ミーナの中で、王都=焼きいもで征服する場所、という構図ができあがりつつある。
ルークはふっと笑い、ミーナの頭を撫でる。
「王都、行くかもしれない。でも、まずは……こっちの畑をちゃんと見てからな」
するとミーナは、真剣な顔で言った。
「じゃあミーナ、今日も“おいも部隊”出動ね! にゃふぇたちも、ほりほりー!」
「おーい、にゃふぇ部隊出動準備!」
ルークの声に、畑の端で寝転がっていた猫たちが、ぞろぞろと立ち上がる。
どこからともなく、ミーナ謹製の“いもほり帽子”が猫たちの頭に乗っていく。
もはや農業か遊びか判別不能な空気。
けれどその、ちいさな畑のちいさな一角で、
確かに“王国の希望”は今日も育っていた。
その名は、緋陽草。
そして、ミーナと猫たちの“焼きいも前線基地”。




