「土と王家のはざまで──ルークの決断、そしてミーナは……」
翌朝。
空はすっかり秋の色に染まり、畑の土からは冷たくも香ばしい匂いが立ちのぼっていた。
「おにーちゃーん! にゃふぇが、畑ほじってなんか見つけたー!」
ミーナの声が、朝靄を突き抜けて響いた。
ルークが鍬を手に振り返ると、ミーナが猫のにゃふぇを抱えて全力疾走してくる。
その手には、ころりと黒くて光沢のある、小さな種。
「これ! なんか、ピカピカでかっこいいよ! なんの種!? ねぇ、ねぇっ!」
「ん……これは……」
ルークが手に取ると、すぐにわかった。
これは、昨夜母から聞いた“ベルナン王国でしか育たない特別な植物”の種だ。
偶然なのか、あるいは誰かがここへ持ち込んだのか――。
ミーナは首をかしげる。
「それ、食べられるの?」
「……いや、これはすごく貴重で……でも、育てられたらきっと――」
言いかけて、ふとルークは思い出した。
王都から再び届いた、収穫の依頼状。
隣国ベルナンではすでに“凶作”が始まっているという話。
この種を育てれば、人の役に立てるかもしれない……。
だがそれは、“ここ”を離れるということを意味しているかもしれなかった。
──静かに、選択の時が近づいている。
「お兄……?」
ミーナが、不安そうな顔をする。
「ううん、大丈夫。ありがとうな、ミーナ。見つけてくれて」
ルークは、笑ってその小さな頭をなでた。
にゃふぇが「にゃっ」と鼻を鳴らして、ミーナの腕の中から飛び降りた。
「じゃあ、これ……ミーナが育てるー!」
「えっ、ミーナが?」
「うんっ。お兄は畑、いーっぱいやってるから、ミーナはこの子、やるっ!」
そう言って、ミーナはすぐに小さなスコップを持ち出して、畑の隅に穴を掘り始めた。
――それはとても、不格好な植え方だったけど、
ルークは黙って見守った。
「……よし、ならミーナの特別ミッションだ。
この種、ぜったいに咲かせてやろうな」
「うんっ!」
風が吹いた。
秋の空が広がっていた。
ルークは、ゆっくりと深呼吸をした。
どこで生きるにしても。
誰の力を借りるにしても。
自分の手で土を掘り、自分の目で作物を見て、自分の妹と笑っていたい。
それだけは、変わらない。
──そして、その思いが静かに根を張りはじめていた。




