「再び届いた王都からの封書──静かに揺れ始める、世界の食卓」
秋の夜。
畑の収穫もひと段落し、ミーナはふかしたおいもを抱えて、猫たちに囲まれてご機嫌だった。
「んふふ、にゃふぇ、はい、あーん!」
「もふーん……(満足)」
その横で、兄ルークはセレナから届けられた封蝋付きの手紙を手にしていた。
「……また王都か。やな予感しかしない……」
今度の手紙は、以前よりももっと丁寧で、もっと切迫していた。
《ルーク=グランフィード殿》
このたび、隣国ベルナンにて深刻な凶作が報告されました。
王都では現在、**“農業支援特区の創設”**を検討しております。
貴殿の栽培技術および作物の成果は、多方面から注目されております。
ぜひ一度、王都へお越しいただき、状況をご確認いただけませんか。
「……俺、そんな大層なことしてたか?」
思わずため息をつく。
“ちょっとおいしいトマトができた”
“甘すぎるさつまいもが掘れた”
“子どもたちが喜んでる”
その程度の“農家ライフ”だったはずなのに。
ルークは視線を遠くへ向けた。
風の噂では、隣国では数ヶ月にわたって雨が降らず、作物の半分以上が枯れたと聞く。
農民が逃げ出し、都市に食糧を求めて流入し……市場は混乱している、と。
そして王都は、“解決の鍵”として、ルークを指名し始めている。
「……俺のチート、もう隠せる段階じゃないのか……?」
夕暮れ、猫たちの「にゃーん」というのんきな声と、ミーナの「焼きいももっとー!」の声に包まれながら、
ルークは、少しずつ忍び寄る“大きな世界の波”を感じていた。




