「赤い宝石、王都を揺らす」
数日後。
村の広場に、見慣れない馬車がやって来た。
金縁の封蝋がついた、やたら丁寧な文書を携えて、王都の商務部門からの“正式依頼”──
「グランフィード家が栽培した赤い果実を、王都のスイーツ協会が採用候補に選出しました」
「つきましては、継続供給と独占契約を──」
セレナがうっすら苦笑しながら説明してくれた。
「スイーツ職人たちの間で“ミーナの赤い宝石”って呼ばれてるの、ルークさんのトマト……なんですの」
ミーナは、まるで自分が王族にでもなったような顔でふんぞり返っていた。
「ミーナ、あのとまとジュース、またつくるのー♡」
「ちょっと待てミーナ、それ、収穫したやつもうほとんど残ってないからな……」
ルークは納屋の中に積んでいた木箱を確認して、しばらく沈黙した。
(……そういや、もう秋も深い。トマトって、そんなに長くは採れねぇんだった)
春に植えた苗が、夏を越えて頑張ってくれたけど、そろそろ終わり。
それなのに──
「“毎月100箱分のジュース果実を希望”……? は!? んなバカな、自然界の理を知らんのか!」
叫ぶ兄をよそに、にゃふぇとミーナはお店ごっこの新メニュー開発に夢中。
「にゃふぇ! つぎは“とまとあいす”にしよう!」
「にゃ!」
ルークは頭を抱える。
(ちょっとずつ、“チート農家”としてバレつつあるんじゃ……)
彼の農業スキルは、まだ完全には明らかになっていない。
けれど、作物の育ちが早い、糖度が高い、日持ちがする──その“ちょっとした違和感”が、村の外にもじわじわ届いていた。
このまま王都に乗せられて“とまと大名”にされるのか。
それとも──
「……次の作物、考えないとヤバいな」
そうつぶやいた兄の背で、ふわりと秋風が吹いた。
その中で、ミーナは今日もにこにこ笑っている。
「にゃふぇ~、つぎは“とまとケーキ”にする~♡」
「……もうトマトねぇんだよォ!」




