「かかしと、攻防戦」
「兄ぃ……こいつ、ぜったい見てる……」
畑の片隅、麦畑の中に立てた手作りかかしの前で、ミーナがじりじりと後ずさっていた。
「見てるって、何が?」
「この、かかし……ミーナのこと、ずっと見てる気がする……」
……いや、それはお前が“かかし番”として正面に立ってるからだ。
「かかしに目なんてないだろ。ほら、布の顔に炭でにっこり描いただけで——」
「それが逆に怖いの!!」
ぴたっと俺の背中に隠れるミーナ。
かかしの素朴な笑顔が、彼女の目には“怪しげな笑み”に見えているらしい。
「ねえ兄、あれ……昨日より近くない?」
「いや、据え置きです」
「勝手に動いたりしない? 夜とか……トテトテって……」
「ミーナ、それ完全にホラーだぞ。村の子供が泣くからやめろ」
「むしろミーナが泣くぅぅ!」
ギュウウッと俺にしがみつくミーナ。
もう作業にならない。かわいいけど、仕事にならない。
「わかった、わかった。かかしと仲良くなる魔法、教えてやるよ」
「ほんと!?」
「“おいしいごはんを毎日残さず食べたら、かかしさんは味方になる”っていうおまじないだ」
「……そ、それってごはん食べさせたいだけじゃない?」
図星を突かれて、俺は軽く咳払いした。
「そ、そんなことない。“畑の神さま”の言い伝えだぞ? たぶん」
「……むぅ〜。でも兄が言うなら、信じる!」
そしてまた、かかしに向かってぺこりと頭を下げるミーナ。
「よろしくね、かかしさん。ミーナ、ごはんいっぱい食べます!」
かかしは相変わらず、変わらぬ笑顔で風に揺れていた。
—
こうして、
妹 vs かかしの見えない攻防戦は、まだまだ続く。