『玉ねぎと涙と、猫たちのある日』
その日、台所には不思議な光景が広がっていた。
とん、とん、とん。
まな板の上で刻まれるのは――玉ねぎ。
しかし。
包丁を持っているのは、なんと猫である。
『むいているだけなのにゃ……』
ぽろっ。
しろやくろの目から、つーっと涙。
『泣いていないのにゃ……』
ぽろぽろっ。
隣ではクロが鼻をすすりながら皮をむいている。
『これは……玉ねぎのせいにゃ……』
『そうにゃ……決して心のせいではないにゃ……』
だが。
その顔はどう見ても――しんみりしている。
「……なにやってるんだ、あいつら」
ルーク、台所の入口で完全に呆れ顔。
「猫が玉ねぎむいてる時点でツッコミどころしかないんだけど」
その隣では――
「すごいのです!! 猫さんたち、お料理してるのです!!」
ミーナ、拍手。
評価が優しすぎる。
『玉ねぎむいているだけなのにゃ……』
『涙がこぼれて困るのにゃ……止まらないのにゃ……』
猫たち、謎の合唱状態。
しろやくろは、涙をぬぐいながら遠い目。
『なんだか……センチな気分にゃ……』
「いや完全に玉ねぎのせいだからな?」
ルーク、冷静ツッコミ。
だが猫たちは止まらない。
クロがぽつり。
『幼い日……夕焼け……』
「急に何!? 思い出語り!?」
トラも続く。
『あのときの魚……もう遠いにゃ……』
「魚の思い出なの!?」
完全に雰囲気に飲まれている。
ミーナはというと。
猫たちの隣にちょこんと座り、
「……なんだか、きれいなのです」
にこにこしながら見ている。
「涙がぽろぽろなのに……なんだかあったかいのです」
その言葉に、猫たちはぴたりと動きを止めた。
『……あったかい?』
『そんな感じ、するにゃ?』
「うん!」
ミーナは大きく頷く。
「みんなでいるから、かな?」
その一言で――
しろやくろ、さらに涙。
『……だめにゃ……また出てくるにゃ……』
『玉ねぎ強すぎるにゃ……』
「だから玉ねぎだって言ってるだろ!!」
ルーク、ついに声が大きくなる。
そのとき。
ミーナが玉ねぎをひとつ手に取った。
「ミーナも、むいてみるのです!」
「いややめとけって」
しかし――
ぺり。
ぺりぺり。
「……あれ?」
ぱちぱち瞬き。
「涙……出ないのです」
猫たち、ざわっ。
『なに!?』
『そんなことあるにゃ!?』
『才能にゃ!?』
「いや個人差だろ!?」
ルークが頭を抱える。
ミーナはくすっと笑った。
「じゃあね、みんなの分、ミーナがむくのです!」
そう言って、小さな手で丁寧に玉ねぎをむいていく。
猫たちはその様子を見つめながら――
『……すごいにゃ……』
『ミーナ、つよいにゃ……』
『我ら、涙担当にゃ……』
「役割分担がおかしい」
ルーク、もはや諦めの境地。
しばらくして。
玉ねぎはきれいにむき終わり。
猫たちは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、満足そう。
ミーナはにこにこ。
ルークは深いため息。
「……で、これ、何作るんだ?」
全員、ぴたりと止まる。
『……』
『……』
『……考えてなかったにゃ』
「だろうな!!」
その後。
結局ルークが料理を仕上げ、
みんなで温かいスープを囲むことになった。
「おいしいのです!」
『しみるにゃ……』
『涙の味にゃ……』
「それただの玉ねぎスープだろ」
でも。
湯気の向こうで笑う顔は、どこか優しくて。
ちょっとだけ――
センチで、あたたかい一日だった。
すみません、アイデアが無いので、また、ある歌から頂きました。
こんなんでも、読んでくださる皆さん、ありがとうございます。




