「ミーナ、おすましスイーツ嬢になる!?」
朝。
村の空気はすっかり秋めいて、冷たい空気にほんのり甘いトマトの香りが混じっていた。
裏庭では、今日もミーナがにゃふぇ(猫の長)たちとごそごそと何やらやっている。
「にゃふぇ、こっちにテーブル! それから、カップを三つ並べて……そうそう、おすまし顔でにゃ!」
「……また何やってんだ?」
ルークがのぞきに行くと、そこには小さな“即席カフェ”が広がっていた。
木箱をテーブルにして、布をかけて、ちょっとだけ貴族っぽいティーセット(実はおもちゃ)が並べられている。
ミーナは、赤いリボンをきゅっと結び、にこーっと笑った。
「いらっしゃいませっ、おにーさま! 本日は“ミーナのとまとしゅいーつかふぇ”へようこそ~♪」
「お、おう……!?」
「こちら、本日おすすめの“きらきらトマトゼリー”でございます♡」
見れば、ちょっと溶け気味のゼリーが木の皿に盛られている。
味見用にと摘んでみれば──
「……おっ? ちゃんと甘い。ていうか、うまい」
「えへへ~、すごいでしょ! ミーナ、がんばったの!」
そう、それは数日前、ミーナが言い出したことだった。
「ミーナも、みんなに“おいしい”って言ってほしい!」
にゃふぇたちと一緒に、兄の育てたトマトをすりつぶし、はちみつとゼラチンの代わりに採れたばかりの“ねば草”の液を使って固めた。
失敗もしたけど、今日はちゃんと“成功”の味がする。
「……やっぱりお前はすごいな、ミーナ」
「えへっ、ミーナ、かふぇじょーになるの!」
「カフェ嬢!?」
兄はなんとも言えない表情で笑った。
その日、ミーナの“スイーツカフェごっこ”は、村の子どもたちに大人気となった。
途中で通りかかったセレナ(領主の娘)や、猫たちも参加し、即席カフェはいつの間にか“ミーナ食堂”に格上げされていた。
兄ルークは、それを遠巻きに眺めながら、手帳を開く。
(……やっぱり、収穫時の糖度が上がってるな。去年の2.4倍? これ、明らかに“農業スキル”入ってるだろ……)
だけど、それをわざわざ騒ぎ立てることはしない。
この小さな幸せを、静かに育てていきたい。
ミーナの笑顔がある限り、ルークの“農家ライフ”はまだまだ続くのだ。




