「王都のスイーツ職人、ついに動く!? “ミーナの赤い宝石”を求めて」
その日、村に見慣れぬ馬車がやってきた。
金と紫のラインが縫われた、いかにも“貴族好み”の派手な馬車。だが乗っていたのは──意外にも、小柄で渋い顔をした男だった。
「ふむ……この空気、この陽ざし、この土の匂い……まさに理想だな」
「おいおいオルジェさん、今回は視察だけのはずだろ?」
「黙れ助手。スイーツとは“風”と“土”から始まるのだ」
男の名はパティスリエ・オルジェ。
王都のスイーツ業界で“黄金の舌”と呼ばれた男。
彼の名がレシピにあるだけで、宮廷晩餐会のデザートに採用されるという伝説を持っている。
◇「赤い宝石を求めて」
「この村に、“宝石のような甘さのトマト”があると聞いたのだが──」
案内された先は、にゃみカフェ。
ミーナがいつものように「とまとアイス」の飾りつけをしていると、
店先に現れた黒ずくめの男が、黙ってそれを見つめていた。
「ねーちゃん? おじさん、食べてかないの?」
ミーナがトマトアイスを差し出すと、オルジェは無言で一口。
……そして、目を見開いた。
「……これは……」
「え、まずい?(ドキドキ)」
「いや、違う。これは──“熱を持たずに糖を解き放った果実”……!」
助手が横からノートを取り出す。
「記録します。『ルーク農園産トマト、糖度12以上。加工耐性高。スイーツ向け果実として“赤い宝石”の称号を得る』」
◇「天才、動く」
その日から、村の一角に“妙に仰々しいキッチンテント”が設営された。
「ここが新たなるスイーツの戦場……!」
「ちょっと、勝手に村の畑に薪窯持ち込まないでくれる!?」
そしてオルジェは、早速ルークのトマト・かぼちゃ・ベリー類を使い、
**新作スイーツ『田園の宝石サブレ』**を開発。王都へのサンプルを送り出す。
──1週間後、王都から“正式な商談”の便りが届いた。
◇「ミーナの店に、王都からお客様?」
「おいミーナ! 王都から、“おかわり”のお客さんが来るらしいぞ!」
「え!? あたしのアイス!? あれ、とまとしか入ってないよ!? ねこも混ぜたけど!」
「猫は混ぜるな!!」
──けれどその無邪気さが、世界を変えていく。
今日もミーナは、トマトのヘタを切って、笑っている。
にゃふぇは「にゃふぇっへ」と厨房で泡立て器を回す。
セレナは相変わらず、店の隅で紅茶を入れている。
そして兄ルークは、
「なんで俺の畑が王都案件になってるんだ……」とスコップを担ぎながら、
“次の作物”を植えるのだった──。




