川の先で待っていた宝物
川沿いの道を進む三人の目には、ところどころ小さな倒木や岩が立ちはだかっていた。ミーナは軽やかに飛び越えようとするが、つまずいてよろける。
「きゃっ!」
「あ、大丈夫か?」ルークはすぐに手を差し伸べ、にこっと笑う。
「にぃに、手を離さないでなのです!」ミーナは必死に手を握り返す。
ギャリソンは少し離れて歩きながら、静かに眉を寄せる。
「小さな冒険者は元気すぎますね……」低く呟き、背筋を伸ばしたまま三人を見守る。
やがて、森が少し開け、川がくねくねと曲がった先に小さな広場のような場所が見えてきた。水面が夕日の光でキラキラと光っている。ミーナは目を輝かせた。
「にぃに、あそこ、もしかして……」
ルークも川の向こう側を見渡す。そこには、かすかに見覚えのあるシルエット――猫たちの姿が、川辺にちらちら見えた。
「……あれは、クロたちじゃないか?」ルークの声も、少しだけ震えている。
ミーナは小さな手をぎゅっと握り、足を早める。
「にぃに、早くなのです!」
ギャリソンも静かに足を速め、慎重に周囲を観察しながら進む。
◇
川の浅瀬を渡ろうとしたそのとき、ブチの声が聞こえた。
「にゃっ!? 誰にゃん、あっちから来たのにゃん!?」
シロもミケも顔を見合わせ、あわてたように尻尾をふりふりする。
「ちがうにゃん! そっちにゃん!」「いや、こっちだにゃん!」
猫たちはお互いに小声で言い合いながら、ぐるぐると走り回る。クロは顔をしかめ、つい大きな声で指示した。
「落ち着くにゃん! 川をたどれば元の道に戻れるにゃん!」
◇
ミーナは川沿いの道に沿って小走りで進む。
「にぃに、見えたのです……あ、クロなのです!」
クロは振り向き、鼻をひくひくさせる。
「にゃん……にぃにとミーナちゃん!? こんなところで会えるとはにゃん!」
猫たちは互いにぴょんぴょんと跳ね、尻尾をぶんぶん振って喜ぶ。
「お土産持ってきたにゃん!」クロが誇らしげに鰹節を見せると、シロとミケも鼻をひくひくさせてにおいを確かめる。ブチは少し遠慮しながらも、尻尾を立てて満足そうに見守る。
ミーナは小さな手で鰹節を受取り、抱え、ルークの元へ駆け寄った。
「にぃに、見てなのです! 猫たちが持ってきたのです!」
ルークは笑顔でそれを受け取り、ミーナをぎゅっと抱きしめた。
「すごいな、猫たち……大冒険だったんだね」
ギャリソンは少し離れて立ち、渋い表情で静かに観察する。
「無事に戻ってきましたか……」低く呟き、肩の力を少し抜く。
猫たちは満足そうに鼻を鳴らし、互いに顔を見合わせる。
「にゃん、にゃん! 無事でよかったにゃん!」シロが小さく鳴き、ミケも応える。
ブチは少し得意げに尻尾を振り、クロは胸を張って鼻先で香りを嗅ぐ。
ミーナは小さく跳ねながら、鰹節を抱えたまま猫たちを見上げる。
「わぁ、すごいのです! こんなにいっぱい……」
ルークは笑いながら、猫たちを撫でる。
「おかえり、みんな。これで一安心だ」
ミーナは顔を輝かせ、軽やかにルークの手を握る。
「にぃに、ぼうけん、楽しかったのです!」
ギャリソンは静かに、しかし満足げに背筋を伸ばす。
「これで今日の任務は無事終了……かもしれませんね」
川沿いで再会の喜びを分かち合う猫たちとミーナ、そしてルーク。夕日の光が三人と猫たちを柔らかく照らし、長い旅の疲れも感じさせない。森や川の道中で起きたコミカルな迷走も、すべてが冒険の余韻となっている。
ミーナは鰹節を抱え、くるくると跳ねながら猫たちの周りを回る。
「にぃに、見てなのです! これが宝物なのです!」
ルークは微笑みながら、猫たちに声をかける。
「さあ、これでみんな揃ったね。さあ、家に帰ろうか」
ギャリソンは渋く頷き、夕暮れの川沿いを静かに歩く。
「さて、無事に帰るために、最後のひと踏ん張りです」
猫たちはぴょんぴょん跳ね、時折「にゃん!」と声をあげながら、ルークとミーナのそばを楽しげに進む。ミーナは小さな手で鰹節を抱え、目を輝かせながら、次の冒険を夢見るようにして歩いた。
こうして、三人と猫たちは再び川沿いの道を進む。迷いながらも笑い合い、互いに声をかけあい、軽やかな足取りで家路へ向かうのだった――