表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

250/256

猫たちの珍道中 ― 至高の○○を求めて

 満月の夜、ミーナ・バオア・クーの秘密結社は静かに決議を下した。

「珍しいものを探し、ミーナに届けよう!」


 クロの一声に、猫たちは一斉に「にゃーっ」と同意する。

 かくして翌朝――まだミーナが寝ぼけ眼でパンをかじっているうちに、猫たちはこっそりと村を出ていた。


 白猫のシロが軽やかに先を行き、三毛のミケは途中で草むらに飛び込み、なにやら虫を捕まえては得意げに披露する。灰色のブチは「ふん、そんなものより魚を見つけろ」と不満をこぼし、子猫たちはただわちゃわちゃと後をついてくる。



 最初の難所は、村はずれの大きな麦畑だった。

 黄金色の穂が風に揺れ、猫たちの体を覆うように広がっている。


「にゃん……まるで森みたいだにゃ」

 クロが低く呟き、仲間たちはしばらく進む方向を見失ってしまった。


 そこでシロがひょいと高い石垣に飛び乗り、真っ直ぐな道を発見する。

「こっちにゃ!」

 皆で声を合わせて突進する姿は、まるで小さな軍隊だった。



 山を下りると、深い谷が現れた。

 そこに架かるのは、古びた木の吊り橋。


 猫たちはしばし足を止める。風が吹くたびに揺れ、下を覗けば流れの速い川。


「これは……試練にゃ」クロが真剣な表情で言う。


 一匹ずつ進むことになった。シロが先頭を歩き、ミケが後を追う。ブチは吊り橋の真ん中で「無理だにゃ!」と固まってしまったが、後ろから子猫が背中を押して進む。


 ようやく渡りきったとき、空から奇妙な鳥が舞い降りてきた。

 羽は虹色に輝き、尾羽が長く垂れている。


「にゃお……こんなの見たことないにゃ!」


 鳥は「クェェ」と一声鳴き、猫たちの前をひらひらと飛んでいく。まるで道案内をするように。

 猫たちは夢中でその後を追った。



 鳥の導きで、

 猫たちは森を抜け、川辺にたどり着いた。

 清らかな水がさらさらと流れ、川底には銀色に光る魚影が泳いでいる。


「これはもう、ごちそうにゃ!」

 シロが興奮して川へ飛び込もうとするのを、クロがしっぽで止めた。


「作戦を立てるにゃ」


 猫たちは石の上に陣取り、魚を捕まえる方法を相談した。

 シロは前足を水に突っ込み、ピシャンと跳ね返される。

 ミケは水面に身を乗り出して「えいっ」と飛び込むが、あっさりと魚にかわされる。

 ブチは「こういうのは待ち伏せが一番にゃ」と石の影に潜んでみたものの、結局魚は寄ってこなかった。


「にゃあああっ! 難しいにゃ!」


 やがて、ミケが足を滑らせて川に落ちてしまった。

「にゃーーーっ!!」

 慌ててシロが助けに飛び込み、クロもブチも次々と水に飛び込む。


 だが――そのまま流れに呑まれた。



 川は思った以上に流れが速かった。

 猫たちは必死で泳ぐが、四方から水しぶきが上がり、視界がぐるぐると回る。


「にゃ、にゃがされるぅぅ!」

「にゃーーっ!」


 そこへ大きな流木が流れてきた。

 クロが素早く飛び乗り、「こっちにゃ!」と仲間を呼ぶ。

 猫たちは次々とその上に飛び乗り、何とか一息ついた。


 こうして、猫たちは思わぬ「川下りの船旅」を始めることになったのだ。


 流木は揺れながらも安定して流れ、猫たちは「にゃー!」「楽しいにゃ!」と尻尾を振りながら景色を楽しんだ。

 森の緑が流れ去り、鳥たちが驚いて飛び立つ。時折、魚が跳ねては船に落ちそうになり、猫たちが慌てて飛びかかる――しかし結局、魚の方が一枚上手だった。



 どれほど流れただろうか。

 やがて川の流れは広がりを見せ、潮の香りが漂ってきた。


「にゃ……これは……」

「しょっぱい匂いにゃ!」


 猫たちは一斉に前を見た。

 目の前に、広大な青い海が広がっていたのだ。


 波が寄せては返し、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。

 猫たちの流木はそのまま波に乗り、海へと漕ぎ出してしまった。


「すごいにゃ! 川より大きいにゃ!」

「でも……どこに行くのにゃ?」


 不安と興奮が入り混じる猫たちの心。

 そのとき――。



 岩場のある砂浜に、数匹の猫が姿を現した。

 彼らは毛並みが艶やかで、どこか荒くれた雰囲気を漂わせている。


「おい、何者だ!」

「見ない顔だな!」


 先頭に立つ大きな白黒模様の猫が、鋭い目つきで問いかけてきた。

 クロが胸を張り、「我ら、ミーナ・バオア・クーの猫たちにゃ!」と名乗る。


「ミーナ・バオア・クー……? ふん、きっと山の猫だろ。ここは海の猫の縄張りだ。勝手に入るな!」


 にらみ合う両者。

 シロとミケは思わず尻尾を膨らませ、ブチは低く唸り声をあげる。


「戦うしかないにゃ!」



 その言葉を合図に、海の猫たちが飛びかかってきた。

 砂浜に爪が飛び、波しぶきがあがる。


 クロは素早い動きで相手の背後を取り、シロは体当たりで相手を押し倒す。ミケは尻尾で砂を巻き上げ、ブチは力任せに相手をねじ伏せた。


 戦いは激しかったが、やがて互いに疲れ果て、ぜーぜーと息をつきながら見合った。


「……やるな、お前たち」

 白黒の猫が、口元を吊り上げた。

「山の猫にしては悪くない」


 クロもまた、口角を上げる。

「お前たちも強いにゃ。認めるにゃ」


 こうして、波打ち際の戦いはいつしか友情へと変わっていった。



 戦いのあと、海の猫たちは陸の仲間を岩場の奥へと案内した。

 そこには漁師の集落があり、魚を干している場所があった。


 干された魚の中でもひときわ輝く、茶色く固い棒のようなもの。

「これが……至高の食べ物だ」


 白黒の猫が誇らしげに言う。

「人間たちは“鰹節”と呼んでいる。香りも味も格別だ」


 クロたちは一斉に鼻をひくひくさせ、目を輝かせた。

「すごい匂いにゃ……!」

「これぞ、ミーナに捧げる宝にゃ!」


 海の猫たちは快く分け与え、「また来いよ」と別れを告げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ