「領主の訪問と、国家スカウト?」
お菓子会が終わった数日後。
畑でトマトの手入れをしていたルークのもとに、村の長がやってくる。
「ルーク、ちょっと屋敷まで来てくれんか。領主様が……お前に話があると」
「……領主が、俺に?」
◇
領主邸。応接室。
重厚な扉が開かれ、中にいたのは──
若く、凛とした雰囲気の女性。
(セレナの母であり、この領の主)
彼女は、ルークを見るなり、静かに微笑んだ。
「……“あの畑”を、見せてもらったわ」
彼女の後ろには、書記官のような男が地図と書類を抱えて控えている。
「通常の村落農法では考えられない収穫量、そして品質。トマト、にんじん、ハーブ類……どれも王都でも高値で取引されるレベルよ」
「……たまたま、土が合ったんだと思いますよ」
「謙遜ね。でも、私は“魔力動因の土地強化痕”を確認してるわ」
──つまり、“魔法的なスキル”がこの農業に絡んでいる、ということ。
ルークは内心、(やっぱりバレるか)と頭をかいた。
◇「国家規模の計画」?
「率直に言うわ。あなたのその“農業スキル”──国家で活用できないかと、王都から依頼が来ているの」
「……依頼?」
「都市近郊の農地開発、新しい作物の導入計画、魔法農法の導入研究──あなたの能力は、それらにとって“鍵”となり得る」
ルークは少し目を伏せる。
(……確かに、俺のスキルは便利だ。でも、それを王都に持っていくとなると──)
そのとき。
「にぃぃぃぃ!! ここだったのー!?」
どたばたとドアが開き、ミーナが勢いよく飛び込んできた。
セレナも小走りで追いかけてくる。
「ミーナちゃん、入っちゃダメって──!」
ミーナはルークの腰にしがみつく。
「もう帰るっていってたのに、まだだったー!」
領主の目が、ふっと和らぐ。
「……あの子が、“ミーナちゃん”ね。セレナから、よく話は聞いているわ」
◇「選択は──」
領主はゆっくりと立ち上がり、ルークに言う。
「この件、すぐに決めろとは言わない。ただ……王都はあなたに“使節団”を送る気でいる。断るなら、そのつもりで準備を」
──国が本格的に動き出す。
妹がルークの袖を引っ張る。
「兄!、王都いくの?」
「……行かねえよ。いまは」
「よかった! だって、今日、トマトの新しいジュース試作するの!」
セレナが苦笑しながら、ルークに言う。
「でも……王都から、本当に来るかもしれなくてよ」
「……ま、その時は、妹と猫と相談して決めるさ」
にゃふぇ「にゃっふぇ~(運命の味見係として!)」
──国家が動く日も近い。
だが今日も、畑には陽が差し、妹はトマトを両手に笑っていた。




