王都の影とグランフィード家の使命
王城のとある書斎にて、クラウスは国王の前に立っていた。
背後にはギャリソンも控え、沈黙のまま場を見守っている。
「グランデール伯爵が……黒幕、か」
王の声音は重く沈んでいた。
「確証はまだですが、証拠の一部は押さえました。猫たちが拾った紋章入りの布が決定打となるでしょう」
クラウスの低い声が書斎に響く。
王の眉間に深い皺が刻まれる。
「……あやつは代々、王家への忠誠を示してきた名門のはず。だが、裏で人攫いに関与していたとすれば、ただ事では済まぬな」
クラウスは黙って頷いた。
「だからこそ、真相を徹底的に洗い出す必要があります。陛下、今しばしの猶予を」
「うむ……」
国王は腕を組み、しばし瞑目する。やがて重々しく口を開いた。
「クラウスよ、そなたが動くのは構わぬ。ただし、王都に混乱を広げることだけは避けよ。あの兄妹も……今は王都におるのであろう?」
その言葉に、クラウスの表情がわずかに動いた。
彼は深く息を吐き、静かに語る。
「……陛下。ルークとミーナを王都に呼んだのは、ただ私の気まぐれではありません。彼らは――いずれ、この国の未来に関わる存在となるでしょう」
「未来に……?」
王が目を細める。
クラウスは続けた。
「ルークは己の剣を律し、ミーナは無垢にして人の心を動かす。その傍らにいる猫たちの働きもまた、偶然の域を超えている。あの子らが王都で過ごすことは、必ずや意味を持つ。私はそれを見極めたいのです」
ギャリソンが一歩前へ出る。
「ルーク様もミーナ様も、すでに小さな事件を通して王都の影を知りました。今さら田舎へ戻すのは無理でございましょう。ならば、殿下――いえ、クラウス様の庇護のもとで経験を積ませるのが得策かと」
王は重く頷いた。
「……よかろう。だがクラウスよ、忘れるな。お前の背負うのは一族だけではない。王都全ての均衡だ。軽々に動けば、貴族社会はすぐ牙をむく」
「承知しております」
クラウスの返答は、石壁のように揺るぎなかった。
その横で、ギャリソンは静かに目を伏せる。
渋い表情の奥に、“何かが始まろうとしている”予感を滲ませながら。