王都に忍び寄る影と農園の午後 漆
救出成功と黒幕の影
──倉庫街の夜は、激しい戦いの末に静けさを取り戻しつつあった。
クラウスの圧倒的な力と、ギャリソンの冷静な采配、そして猫たちの機転により、賊たちは完全に制圧された。
ルークとミーナの導きで子供たちは外へと救い出され、怯えた顔に安堵の色が差し始めていた。
「もう大丈夫だよ。怖かったね」
ミーナは子供の一人の手を握り、優しく微笑んだ。
「にぃにがいるし、みんなもいるから」
その言葉に泣きじゃくる子供たち。ルークは妹の背を撫でながら、「立派だったぞ」と小さく囁いた。
***
そのとき、猫たちが一斉に鳴き声を上げた。
シロが何かを咥えてクラウスのもとへ駆け寄ってくる。
「ん……これは?」
クラウスが受け取ったのは、豪奢な刺繍が施された紋章入りの布切れだった。
「グランデール伯爵家の紋章……なぜこんなものがここに」
ルークは息を呑む。「ってことは、今回の事件の裏に……」
クラウスは険しい目を向けた。
「子供を攫って金に換えるような下衆な真似を、ただのチンピラができるはずもない。背後には、確実に“貴族の影”がある」
ギャリソンが静かに頷き、すでに懐中時計を開いた。
「丁度良い頃合いかと。王都警備隊が間もなく到着するはずです」
言葉の通り、間もなく甲冑の音が夜を裂き、松明の灯りが近づいてきた。
「そこにいるのはクラウス殿か! 子供たちを保護するために参上した!」
重厚な声を上げて現れたのは、王都警備隊の隊長であった。
クラウスは深く頷き、子供たちを彼らに託す。
「この者たちを安全に保護せよ。王家の名の下に、命を最優先とするのだ」
隊長は胸に手を当てて敬礼し、子供たちを守るように部下を配置した。
***
その後、ギャリソンが指揮を執り、ルークとミーナも警備隊に伴われて移動した。
疲労と緊張から解き放たれた二人は、ようやく一息をつくことができた。
「にぃに……助かってよかったね」
「そうだな。怖かったけど……お前が一番頑張ったよ」
ミーナは照れくさそうに笑い、隣で丸くなった猫たちを撫でた。
「猫さんたちも……ありがとう」
クロはにゃあと一声鳴き、まるで「任せろ」とでも言うように胸を張った。
ルークは妹の笑顔を見つめ、静かに思う。
──平穏な日常を守るために、自分はもっと強くならなくては。
***
数日後。
王城のとある書斎にて、クラウスは国王の前に立っていた。
背後にはギャリソンも控えている。
「グランデール伯爵が……黒幕、か」
王の声音は重く沈む。
「確証はまだですが、証拠の一部は押さえました。猫たちが拾った紋章入りの布が決定打となるでしょう」
クラウスの言葉に、王の眉間に皺が寄る。
「民を守るべき貴族が、子供を犠牲にするとは……決して許されぬことだ」
クラウスの眼光が鋭く光る。
「陛下。私は必ず、この陰謀の根を断ち切ります。背後に潜む“意志”を暴き出すために」
王はゆっくりと頷き、重々しく告げた。
「……任せるぞ、クラウス・グランフィード。王国の未来のために」
こうして、子供誘拐事件は一応の解決を見たが、背後にはなおも深い闇が潜んでいた。