王都に忍び寄る影と農園の午後 陸
アジト潜入~子供救出編
──倉庫街の奥。重く閉ざされた扉を前に、一行は息を潜めていた。
猫たちは屋根や窓枠に張り付き、瞳を月光に煌めかせている。
「内部の人数は十数名ほど。子供たちは奥に集められているようです」
ギャリソンは短く報告し、手にした細い刃を月光にかざした。
「突入すれば騒ぎになる。迅速に、そして確実に子供たちを守る必要があります」
クラウスは頷き、鋭い視線を仲間へ向ける。
「ルーク、ミーナ。お前たちは決して離れるな。猫たちの警告に従え」
「わ、わかった!」
ルークは妹の肩を支え、決意を込めて答える。
ミーナも緊張した顔で「にぃにと一緒に頑張る」と小さく頷いた。
クラウスは扉の取っ手に手をかけ、合図とともに一気に開いた。
同時に猫たちが飛び込み、暗闇の中で甲高い鳴き声を上げる。
「な、なんだ猫だ!?」「くそっ、火を──!」
敵の注意を猫たちが引きつける一瞬の隙。
ギャリソンは影のように滑り込み、最初の男の首筋に手刀を叩き込んだ。
無言で崩れ落ちる敵。
「速やかに制圧を」
彼の冷静な声が、戦場の混乱を支配する。
クラウスは巨躯を揺るがせ、二人の男を軽々と弾き飛ばした。
壁に叩きつけられた賊は呻き声も出せない。
「ルーク、援護を!」
クラウスの号令に、ルークは畑仕事で鍛えた力を込め、木箱を蹴り飛ばす。
積まれていた箱が崩れ、通路を塞ぎ、敵の動きを一時的に封じた。
「にぃに、あそこ!」
ミーナが指差したのは、奥の小部屋から漏れるかすかな灯り。
すすり泣きの声が微かに聞こえる。
「子供たちだ!」
ギャリソンは瞬時に状況を判断し、クラウスへ目配せする。
クラウスは頷き、「私が正面を引き受ける」と言い残して賊の群れに突進する。
圧倒的な威圧感に、敵の足がすくむ。
その間にギャリソンはルークとミーナを促し、奥の小部屋へ急ぐ。
猫たちは走りながら扉の下に鼻を突っ込み、警戒の鳴き声を上げた。
「罠は……ないな。開けろ」
ギャリソンが短く告げ、ルークが全力で扉を押し開けた。
──中には十数人の幼い子供たちがうずくまっていた。
怯えた目を大きく見開き、震えながらこちらを見上げる。
「だ、大丈夫だよ!」
ミーナが駆け寄り、子供の手をぎゅっと握った。
「助けに来たんだから!」
小さな声で「お姉ちゃん……」と泣き出す子供。
その姿にルークの胸は締めつけられる。
「今すぐ外へ出す。ギャリソン!」
「承知しました。猫たち、周囲を確認せよ」
クロとシロを先頭に、猫たちが通路を駆け出していく。
その動きは軍人さながらで、子供たちも呆然と見つめていた。
「にぃに……猫たち、かっこいいね」
ミーナがぽつりと呟き、ルークは苦笑する。
「ほんとにな。今だけは、猫の手も借りたいくらいだ」
外ではクラウスの雄叫びが轟き、敵を次々となぎ倒していた。
「残る者を叩き潰す! お前たちは子供を守れ!」
ルークは妹とともに子供たちを誘導し、ギャリソンは背後を守る。
緊張と混乱の中、救出劇は一気に佳境へと突入していった。