「 ミーナ、帰らず──兄、森へ」
日が傾き、畑に影が伸びる頃。
兄ルークは手を止め、空を見上げた。
「……遅いな」
ミーナが「探検に行く!」と飛び出したのは、朝のこと。
とっくに昼を越え、村の鐘も夕刻を告げているのに、まだ戻らない。
にゃふぇが、さっきから落ち着かない様子でうろうろしていた。
「お前も心配か」
にゃふぇ「……にゃあ」
「……わかった。行こう」
ルークは帽子をかぶりなおし、肩に小さな袋をひっかける。
中には干し肉と水筒と、ミーナの好きな木苺の飴がいくつか。
「……まったく。ひとりで出てって、戻らないなんて……」
森の入り口は、暮れかけの空に照らされて、どこかぼんやり明るい。
小道には、かすかにミーナの足跡──それに猫の肉球──が続いていた。
「にゃふぇ、ついてこい。足音立てるなよ」
にゃふぇ「にゃふぇ(ドヤ顔)」
そうして、兄の“静かな追跡”が始まった。
◆
森の中はひんやりして、風が葉を揺らしていた。
ところどころに、ミーナの落としたと思われるリボンや、なぜか小枝で作られた“にゃふぇマーク”の道標。
「……ふふ、やっぱり置いてってるんじゃないか。お前、ちゃんと迷子対策はしてるのかよ……」
ルークの口元に、ほんの少し笑みが浮かぶ。
◆
しばらくして──森の奥の丘の上。
ルーク「……ミーナ!」
ミーナ「……あっ、おにぃぃぃぃーーっ!!」
猫たちといっしょに草むらでうずくまっていたミーナが、ぱぁっと顔を上げる。
「ご、ごめんねっ! はちみつのおばあさんにもらったの! でも帰り道がちょっとだけわかんなくて……!」
「……はあ。おまえな……」
ポン、とルークはミーナの頭に手をのせた。
「大丈夫だ。ほら、水飲んで。戻るぞ」
「うんっ!」
ミーナのリュックから、ほんのり甘い香りがする。
森のはちみつの瓶──まだあたたかい。
その帰り道、ミーナはずっとにゃふぇと“スイーツ案会議”をしていた。
ルークは、ただ静かにそれを聞きながら、少し後ろを歩いていた。
「……ま、無事でよかった」
にゃふぇ「にゃふぃ(お兄、にやけすぎにゃ)」




