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大男との対決と帰宅

  / ̄ ̄ヽ ̄ ̄\

 ∠  レ |  ⌒ヽ

 \__ノ丶  )| 

   (_と__ノ⊂ニノ


新しいアイデアが……出てこない。

 大男の家。

 雲の上にぽつりと建つその石造りの館は、空に浮かぶとは思えぬほどの重厚さを誇っていた。大きな門、天井の梁、机も椅子も、すべてが常人の三倍以上の大きさだ。ルークとミーナ、それに猫たちは、小さな虫か子どものように見えるに違いない。




「声を抑えろ、ミーナ。ここは敵の巣だ」

 ルークが小声で制したが、ミーナは頬を膨らませて「むー」とした。

 その横で猫たち――灰色のシルヴァと茶トラのバジルは、すでに探索態勢。ひげをぴんと張り、あっちの柱、こっちの机の下と駆け回っては、戻ってきて「安全ニャ」「危険ニャ」と報告してくる。


 と、そのとき――。

 地鳴りのような「どしん、どしん」と響く足音。家全体がわずかに揺れる。


「に、にににに……にゃんだぁぁぁ!?」

 シルヴァの毛が逆立ち、バジルが耳をぺたりと倒した。


「……来たな」

 ルークが剣の柄に手をやった瞬間――。


 奥の扉がどおん、と開き、影が現れる。

 背丈は軽く十メートルを超えるだろう。顔はごつごつと岩のよう、手には巨大な杖を持ち、肩にかけた袋には骨やら石やらがごろごろと入っている。


「……ふん、また人間の匂いがするぞぉ……!」


 どす黒い声が館に響いた。大男だ。


「に、にぃにぃぃ……こわいよぉ」

 ミーナが裾をぎゅっと掴む。ルークはその手を軽く叩いて「大丈夫だ」と答えたが、内心では汗をかいていた。大男の目は鋭く、まるで小鳥を狙う鷹のようにぎらついている。


「人間どもよ……。ここは我が領域。お前たちのような小さき者が立ち入ってよい場所ではない」


 大男の声は雷鳴のように轟き、床が震える。だが――その直後。


「にゃっ……! 見つかったらおしまいニャ!」

「今のうちに隠れるニャ!」


 シルヴァとバジルがミーナのスカートをくいっと引っ張り、台所の巨大な壺の陰へと誘導した。

 ルークはとっさにその場に残り、剣を抜いて身構える。


(ミーナを守るには……俺が時間を稼ぐしかない)


 ルークは大男を真っ直ぐに見上げ、声を張った。


「大男よ! 俺たちは戦うために来たのではない。宝を――ほんの少しの富を分けてもらいに来ただけだ!」


「ほう……人間が、盗人が、厚かましいことを言うものよ!」


 大男の杖が振り上げられた。次の瞬間、床に叩きつけられ、石が割れ、破片が飛び散る。

 ルークは剣で受け流すが、力の差は歴然だった。足が床にめり込み、腕がしびれる。


「にぃにぃぃ!」

 壺の陰からミーナが顔を出した。その声に励まされ、ルークは唇を噛む。


「俺は……負けられない。ミーナを、ついでに猫たちを守るために!」


 だが――形勢は不利だった。

 大男の一撃を必死にかわし続けるが、次第に追い詰められる。床にひびが走り、壁にまで揺れが伝わる。


 そのとき――。


「にゃーーっ!!」

「くらえにゃーー!」


 シルヴァとバジルが天井の梁を駆け上がり、巨大な燭台を揺らした。がしゃん、と落ちた燭台が大男の肩に直撃し、「ぐおっ!」と大男がよろめく。


「今ニャ、ルーク!」

「チャンスにゃ!」


 ルークはその隙を逃さず、机の上に跳び上がると、大男の袋の中へと目を向けた。

 そこには――輝く金貨の山。そして黄金の羽毛を持つニワトリ、さらに不思議な光を放つハープが収められていた。


「これだ……!」

 ルークは袋を斬り裂き、中身を抱え込む。

 金貨の袋をミーナに渡し、ハープを肩にかけ、ニワトリを抱え込むと――。


「逃げるぞ!」


 その合図で、ミーナと猫たちが駆け出した。

 大男が怒り狂い、杖を振り回す。


「ぬぅぅぅぅ!! 我が財宝を奪う気かぁぁ!」


 館全体が揺れる。天井の石片が落ち、床が裂ける。

 それでもルークたちは走り続け、扉を抜け、庭を駆け、そして――。


 目の前に、天へと伸びるツタがそびえていた。


「ミーナ、登れ! 猫たち、ミーナを守れ!」

 ルークの叫びに、ミーナは「うんっ!」と頷き、ツタへ飛びつく。猫たちも器用に爪を立て、すいすいと登る。


「にぃに、早くっ!」

「分かってる!」


 だが、そのとき。

 大男が追ってきた。大地を揺るがす足音とともに、巨体が門を突き破り――。


「逃がさんぞ、小さき盗人どもぉぉぉ!」


 その咆哮に、ミーナは顔を青ざめさせる。

 ルークは剣を握りしめ、ツタの根元に立った。


「ミーナ、登り続けろ! 俺が止める!」


「だ、だめだよにぃにぃぃ! 一緒に逃げようよ!」


 ミーナの涙混じりの声に、ルークは一瞬だけ振り返った。そして微笑んだ。


「大丈夫だ。お前の笑顔を見たいから、俺は絶対に負けない」


 ――その言葉に、ミーナはぎゅっと口を結び、涙を拭いて必死に登った。

 シルヴァとバジルが「任せたニャ、ルーク!」「絶対に追いつくニャ!」と叫びながら続く。


 大男がツタに手をかけた。

 その瞬間――ルークは決断した。


「……親父、力を貸してくれ」


 腰に下げていた斧を抜き放つ。それはかつて父から受け継いだ、家宝の斧。

 ルークは根元に走り寄り、力いっぱい振り下ろした。


 ざんっ――。

 ツタが大きく揺れ、葉がざわめく。


「ぬぅ!? やめろぉぉ!」


 大男が叫ぶが、ルークは構わず二撃目を叩き込む。

 ツタはみしみしと音を立て、裂け目を広げていく。


「にぃにぃぃー!」

 上からミーナの必死な声。


「大丈夫だ! 必ず戻る!」


 三撃目。四撃目。

 ついにツタがぐらりと傾き、大男の巨体を支えきれず――。


「ぐおぉぉぉぉ……!」


 そのまま雲の下へと、大男は落ちていった。轟音とともに姿を消し、館もろとも雲の裂け目に沈んでいく。


 ルークは息を切らし、剣を突き立てて体を支えた。

 そして、振り返ってツタを登る。


 やがて追いつき、雲を抜け、地上の畑に降り立ったとき――。


「にぃにぃぃぃぃーっ!!」

 ミーナが勢いよく抱きついてきた。涙でぐしゃぐしゃの顔を見て、ルークは苦笑しながら頭を撫でた。


「……ただいま。ミーナ」


「おかえりっ! もうっ、もう二度とあんなことしちゃだめだからね!」


「はいはい」


 猫たちも「よくやったニャ!」「無茶しすぎニャ!」と口々に言いながら、ルークの足元にすり寄ってきた。


 こうしてルークとミーナは、金貨の袋と黄金のニワトリ、歌うハープを持ち帰ったのだった――。


(もうちょっと、つづくよ)

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