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ルークのリベンジ編 ~赤い宝石への帰還~

ミーナが見事な野菜を育て上げた日の余韻がまだ畑に漂っている。

 ルークは、頭を抱えながら土を眺めていた。

 ――自分の努力は一体どこへ行ったのだろうか。


 平和を願った転生者の畑は、なぜこうも異形の作物に囲まれるのか。

 心中で呟く。「これじゃ、俺はいつまでたっても普通の農夫になれない……」


 しかし、ルークは決心した。

 ここで終わりじゃない。リベンジだ。

 ミーナに負けてばかりはいられない。まずは、初心に帰ろう。

 赤くて宝石のような、甘く美しいトマト――あの頃の自分の原点。

 そこから、そこへ帰ろう。


 ルークは深く息を吸い込み、鍬を握った。

 猫たちは、まだ畑に残る奇怪な作物の間をひょこひょこと歩き回っている。

 ジルが土をかき分け、モモが小さな葉っぱにじゃれつく。

 ルークは「また何かやらかすんじゃないか」と心配になりつつも、目の前の畑に集中した。



 まずは耕す。

 土を柔らかくし、雑草や根を取り除く作業は地味だが基本の基本だ。

 「ここは太陽がよく当たる……」

 彼はミーナに教わった(元は自分が教えた)ことも思い出しながら、丁寧に畝を作る。


 次にトマトの苗を植える。

 小さな根をそっと土に埋め、軽く押さえ、添え木で支える。

 「これで、あの赤い宝石がまた帰ってくる……」

 ルークの目に、ほんのわずかだが期待の光が宿った。


 しかし――。


 猫たちが黙っているはずもなかった。


 モモがちょこんと飛び乗り、土をかき混ぜ始める。

 ジルは葉っぱの間をくぐり抜け、苗の上でくるりと回転。

 「やめろ、やめろ! そこは俺の苗だ!」

 ルークは必死に猫たちを追い払い、添え木を直す。


 だが、次の瞬間――


「にゃっ(こっちも植えるのにゃ)」

 ジルが背中に小さな種を抱え、勝手に土に植え込む。


 ルークは絶叫した。

「な、なんだその苗はぁぁぁぁ!!」


 猫たちが植えたのは、どこか見覚えのある形……巨大化する可能性が大いにありそうな野菜の苗。

 彼は頭を抱える。


「……ああ、またか」


 こうして、ルークの“リベンジ作戦”は、早くも波乱の兆しを見せ始めていた。



 翌日。


 ルークは朝日とともに畑に出た。

 添え木はしっかり立ち、トマトの苗は健やかに伸びている――と思いきや、猫たちが植えた謎の苗も、にょきにょきと芽を出していた。


「これは……また巨大化するフラグだな」

 ルークはため息混じりに呟く。


 猫たちはというと、朝から大忙しだ。

 ジルは土を蹴散らして走り回り、モモは新しい苗の周りを回って踊る。

 「ちょっと、何やってんだ!」

 ルークは駆け寄るが、猫たちはまるで彼の声を無視している。


 そこへミーナがやってきた。

 両手に小さなジョウロを抱え、満面の笑み。


「にぃに、私もお手伝いするの!」

 それは、純粋に嬉しい言葉だった。


 ルークは少し戸惑いながらも、心の中で苦笑する。

 ――本当に、俺は何やってるんだ……。

 だが、その可愛さに胸がぎゅっとなるのも事実だ。



 数日後。


 赤い宝石のトマトは順調に育った。

 だが、猫たちが植えた謎の苗も、日々大きくなっていく。

 葉っぱが光を反射し、風に揺れるたびに不思議な音を立てる。


 ルークはつぶやく。

「やっぱり、平和な畑はないのか……」


 その時、猫たちがまた動き出した。

 ジルがトマトの苗の間を縫うように飛び、モモは土を蹴り上げて小さな砂嵐を作る。


「……いい加減にしろ!」

 ルークは両手で頭を抱え、土を見つめて座り込む。

 その姿は、まるで戦場の将軍のようだった。


 しかし、ミーナは楽しそうに笑っている。

「にぃに、見て! トマトも大きくなってきたよ!」

 その声で、ルークの心は少し柔らかくなる。


 猫たちの暴走を前に、ルークは思った。

 ――結局、俺の努力も、猫と妹の無邪気な力でどうにかなるんだな、と。



 ある夜。


 畑に月明かりが差し込む。

 赤い宝石のトマトは、まるで小さな光を宿しているかのように赤く輝く。

 猫たちはその周りでくるくると回り、土を蹴散らし、葉を踏みながらじゃれ合う。

 ミーナは小さな手で苗を抱き、満足そうに微笑んでいる。


 ルークは息をつき、空を見上げた。

「……ま、いっか。今日も無事じゃないけど、悪くない」


 そうつぶやくと、猫たちもミーナも、何事もなかったかのように駆け回る。

 巨大化しそうな謎の苗を横目に、ルークは少しだけ未来に思いを馳せた。


(次こそ、普通の野菜で……いや、無理かもな……)


 それでも、赤い宝石のトマトが揺れる度に、ルークの心は少しだけ落ち着くのだった。

 猫たちの暴走も、ミーナの笑顔も、そしてこの奇妙な畑も――全てが、彼の平和の一部なのだと。


 ――畑は今日も賑やかで、ルークのリベンジ作戦はまだ始まったばかりだった。


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