「秘密の終わりと、ほんとうの名前」
収穫祭が終わって数日。
村にちょっとした“騒ぎ”が起こった。
「き、来たぞーっ! お、領主様の馬車だーっ!」
「えっ!? なになに!? なにごと!?」
村の広場に、上等な馬車が数台。
金の紋章がついた大きな天蓋上の物が日差しを遮っている。
そして──
「村長、案内を頼む。視察に来た理由は、話すより……まず、味わってからだ」
姿を現したのは、威厳ある中年の男性と、凛とした雰囲気の……金髪の少女。
ミーナ「……せれ?」
少女「……っ……」
にゃふぇ「にゃふぇぇぇぇぇぇ!?(バレたにゃ!?)」
場の空気が止まった。
だが、ミーナはぽかんとしたまま、やがて言った。
「そっかー! せれ、お姫さまだったんだー!」
「……ミーナ……怒ってないの?」
「なんで怒るの?」
「だって、私、隠してたのよ……。わたし、“セレナ・フォン・リースレント”……この領の正当な跡取り娘よ。ほんとうは、勝手に村に来ちゃいけなかったの……」
「うーん……でも、“せれ”は、ミーナとおなじとまとジュース作って、お客さんにニコってして、いっしょにお皿洗って、いっしょに転んだし」
「……転んだ……」
「お姫さまでも、それは“せれ”でしょ?」
セレナは、目元に手を当てたまま、静かに笑った。
「……ありがとう、ミーナ」
──視察のあと。
領主は、ルークの畑の一角をじっくりと見つめながらつぶやいた。
「……これが“例のトマト”か。ずいぶんと糖度が安定している……。それに、この……雑草の根の張り方……どういう管理を?」
「いや、ふつうに……水と土と、あとは妹の元気ですかね……」
「……ほう」
ルーク(なんで妙に納得された……)
結局、視察の名目は「村おこしの調査」扱いになった。
セレナもお咎めなし。むしろ、正式に「村の協力者」として認定される。
その日から、ミーナとセレナはもう隠れることなく、広場で並んでジュースを売るようになった。
ミーナ「今日はせれがレモンしぼる番だよ!」
セレナ「それならミーナは氷、お願いね」
にゃふぇ「にゃふぅぅぅ(今日は暑いから完売間違いなしにゃ)」
──ほんとうの名前を知っても、ミーナにとってセレナは“せれ”のままだった。
それが、きっと、いちばんの友情の形。




