まだまだこれから秘密作戦・(にぃにを外に連れ出す計画)
グランフィード家の一室。
ミーナと猫たちが円陣を組んでいた。机の上には、落書き満載の紙切れが広げられている。どう見ても「作戦会議」というより「お絵かきタイム」にしか見えなかったが、当の本人たちは真剣そのものだった。
「――にぃにを、外に連れ出すのです!」
ミーナがぴしっと指を突き上げる。
猫たちが「にゃー!」と声をそろえた。
「この頃、にぃに(ルーク)はずっとお家で勉強やお仕事ばかりしているのです。剣の稽古や畑もあるのですが、なんかこう……にぃにが疲れている気がするのです!」
おお……と猫たちが神妙にうなずく。
金色の毛並みを持つチャトラが「にゃあ(そういえば最近、にぃにが“ふぅ”ってため息ついてたにゃ)」と言うと、白猫のシロも「にゃん(こっそりお菓子を食べてるのを見たにゃ)」と暴露。
ミーナは机に両手を置き、決意を込めた瞳で叫んだ。
「だから、にぃにを元気にするには! 外に連れ出して遊ぶしかないのです!」
「にゃー!!」
こうして「秘密作戦・第二弾(にぃにを外に連れ出す計画)」が始動した。
◆第一段階:誘い出し
「にぃに~。お外に行きましょう~」
ミーナは花冠をかぶり、猫たちを両脇に抱えてルークの部屋を訪れた。
ルークは机に向かって帳簿らしき紙をめくっている。眉間に皺が寄っていて、まさに“疲れたにぃに”の姿だ。
「おう、ミーナ。どうした?」
「お散歩です!」
「いや……今はちょっと忙しいな」
即答で断られた。ミーナはむむむと頬をふくらませる。
猫たちが「にゃー!」と合いの手を入れたが、ルークはくすっと笑って撫でるだけ。
「ありがとな。でも、仕事が終わったらな」
――第一段階、失敗。
◆第二段階:食欲で釣る
「にぃに~! お外にピクニックに行くのです! お弁当もあるのです!」
ミーナが差し出したのは、バスケットいっぱいのサンドイッチ(ただし作ったのはレイナ母)。猫たちも「にゃー!(肉!)」とアピール。
ルークの視線がバスケットに釘付けになる。……が。
「ん~、魅力的だけど。これ、庭で食べればいいんじゃないか?」
「えっ……!?」
「ほら、外出る必要ないだろ?」
――第二段階、失敗。
◆第三段階:猫たちの強硬策
夜。猫会議が再び開かれた。
机の上には「作戦変更案」が並ぶ。
「強行手段にゃ」
「にぃにを拉致して外に連れ出すにゃ」
「縄は用意したにゃ」
「にゃにゃにゃーっ!!」
なぜか盛り上がる猫たち。ミーナは両手をばたばた振って慌てた。
「だ、だめです! にぃにを縛って連れて行ったら……怒られるのです!」
でも猫たちはきらきら目を輝かせている。
結局「にぃにをびっくりさせて楽しく外に出す」という妥協案に落ち着いた。
◆第四段階:大作戦決行
翌日。
ルークが廊下を歩いていると――。
「にぃにっ! こっちですー!」
ミーナと猫たちがばさっと布を広げた。まるで舞台の幕が開くように。
布の向こうには、飾りつけされた庭と、即席の「お祭り屋台」らしきものが並んでいた。
「……おい、これは?」
「“にぃにを外に連れ出す計画”なのです!!」
猫たちが「にゃー!!」と威勢よく合唱。
ルークはぽかんと口を開けたが、やがて笑みがこぼれた。
「外に連れ出すって、庭じゃないか」
「お外はお外なのです!」
たしかに。空は青く、木漏れ日がきらきらしている。
用意された屋台からは、焼きトウモロコシや焼き魚の香りが漂ってきた(母レイナ監修)。
猫たちは鈴を首につけて踊りまわり、ミーナはルークの手をぎゅっと握る。
「にぃに、笑ったのです!」
「……ああ。ありがとな、ミーナ。みんな」
◆エピローグ
結局その日は庭で大騒ぎ。
ルークは仕事を忘れてミーナや猫たちと走り回り、焼き魚を食べ、最後には芝生でごろんと昼寝。
夕暮れ時。寝顔を見つめながら、ミーナが小さな声でつぶやいた。
「にぃに、元気になったのです」
猫たちが「にゃー」と優しく鳴き、夕日が三人と数匹を照らしていた。
――秘密作戦・第二弾、成功なのです!