猫たちの密談~ミーナ・バオア・クーにて~
――それは満月の夜。
村はずれの畑の奥、変わった建物が建っていた。ミーナ・バオア・クーである。
その内部にて、干し草の上に猫たちが集まっていた。
「……にゃん」
「にゃおん」
「ふしゃーっ」
リーダー格の黒猫・クロを中心に、白猫のシロ、三毛のミケ、ふてぶてしい灰色のブチ、その他もろもろが円座になって座り込む。まるで秘密結社の会合である。
彼らの掲げる旗印はひとつ――
「ミーナを楽しませること」
……いや、正しくは「ミーナが一番! 楽しいことが二番!」である。
―――
その時、扉が軋んで開いた。
「おい」
低い声とともに姿を見せたのは、ミーナの父アベル。
元貴族であり剣の達人?として名を馳せる彼が、なぜか正座で猫たちの輪の中に加わる。
猫たちは一瞬ざわめいた。
「ふぎゃ? (なぜお前がここに……?)」
「にゃー……」
アベルは真剣な眼差しで、猫たちをぐるりと見渡す。
「お前たち……また余計なことを考えているな?」
クロたち、ドキッとする。
思い当たるのは多すぎた。森に謎の建造物計画、野菜畑荒らし(作物巨大化)、
川遊びでの大洪水(?)。
「ミーナが楽しそうにしているのはいい。しかし、あの子を危険に巻き込むな。分かったな?」
クロは胸を張る。
「にゃにゃっ!」(了解!)
シロは小首をかしげる。
「にゃーん……」(でも楽しいの大事じゃ?)
ブチが大声で反論する。
「ふしゃーー!」(俺たちの正義は遊びだぁ!)
アベルは額を押さえ、ため息をついた。
「……まったく、聞き分けのないやつらだ」
だが次の瞬間、彼はふっと笑みをこぼす。
「まあ……ミーナが笑っているなら、それでいい」
その一言に、猫たちの瞳がきらりと光った。
「にゃにゃー!」(じゃあ遊んでいいんだな!)
「にゃっ!」(盟約成立!)
――こうして「猫たちとアベルの密約」は成立した。
◆猫たちの密談開始!
「さて……」
クロが尾をぴんと立てる。
「次なる作戦名は――『ブリティッシュ作戦』だ!」
どこかで聞いたことのある名前を叫ぶクロ。
猫たちが「おぉー!」とどよめく。
「……どういう意味にゃ?」とシロ。
「にゃあ、かっこいいから!」とクロ。
意味などない。ただの語感。
だが秘密結社とは得てしてそういうものだ。
猫たちは真剣に語り合う。
「ミーナをもっと楽しませるにはどうするにゃ?」
「巨大カボチャ第二弾はどうにゃ?」
「いや、森のクマを連れてくるとか」
「いやいや、空飛ぶ魚を探してくる!」
会合は熱気に包まれ、気づけば干し草の山が倒れてドサドサと崩れた。
「ふしゃーー!」(静粛に!)
ブチの一喝で、ようやく会議は再開される。
◆しかし、結論はいつも……
延々と議論は続いた。
遊び道具を作ろう案、野菜畑で迷路を作ろう案、村中のリボンを盗んできてミーナを飾ろう案……。
最終的に、クロが宣言する。
「――やっぱり結論はひとつにゃ!」
「「「にゃー!?」」」
「ミーナが可愛い!」
「「「にゃにゃーー!!!」」」
猫たちが一斉に賛同して、地響きのようなにゃんこコーラスが夜空に響いた。
◆アベルのひとこと
騒ぎを聞きつけたアベルが戻ってきて、呆れ顔で言う。
「……結局それか」
しかし、彼もどこか満足げに頷いた。
「だが、それでいい」
猫たちは尻尾をふりふり、アベルの膝に頭をこすりつける。
「にゃー♪」
「にゃにゃ♪」
気づけばアベルも猫たちに囲まれて、ほとんど仲間の一員だった。
◆そして翌朝
翌日、ミーナがミーナ・バオア・クーに来て目を輝かせる。
「わぁ! ねこたち、なにしてるのですか?」
猫たちは一斉に振り返る。
「にゃーん!」(秘密!)
だが次の瞬間、全員でミーナに飛びついた。
ふわふわの毛玉たちが「わしょーい!」とばかりに抱きつき、転がし、くすぐる。
「きゃあっ! やめるのですーっ! ……でも楽しいのですーっ!」
ミーナの笑い声がミーナ・バオア・クーいっぱいに響き、猫たちは満足げに目を細めた。
◆エピローグ
その夜もまた、猫たちは「ミーナ・バオア・クー会議」を開く。
「次はなにをして遊ばせるにゃ?」
「にゃー、リックも巻き込むにゃ?」
「ふしゃー、巨大カボチャ第三弾だろ!」
わいわいと盛り上がる猫たち。
そして最後には、やっぱりこう締めくくられるのだ。
「――結論! ミーナが可愛い!」
「「「にゃにゃーーっ!!!」」」
月明かりの下、猫たちの密談は今日も熱く、そしてハートフルに続いていくのだった。