ルーク再び暴走!? 狩猟大会とリックの背格好事件
「ん? ……ん…うぅん?」
ルークが畑の脇を歩いていた時のことだった。
視線の先で、アニーが洗濯物を干している。そのそばで、彼女の弟――リックが木陰にしゃがみ込んで猫と遊んでいた。
「リックって……ミーナと同じくらいの背格好じゃないか?」
ルークは、ふと立ち止まる。
アニーの弟リックは確かに少年だ。十歳に近いはず。けれど背丈はミーナとほとんど変わらず、華奢そのもの。
(おかしい……! 肉が足りていないのではないか!?)
脳裏にかつての事件がよみがえる。――そう、ミーナが妙に元気がないときに「肉不足だ!」と大騒ぎして、村じゅう巻き込んだあの悪夢である。
「まさかリックも同じ……いや、それ以上かもしれん!」
ルークの瞳がぎらりと輝く。
「えっ、ルーク?」
アニーがきょとんと振り向いた瞬間、ルークは彼女に詰め寄った。
「アニー! お前、弟にちゃんと肉を食わせているのか!?」
「へっ!? い、いや……その……普通に食べてますけど」
「普通ではダメだ! 肉は男の成長を左右する重要要素なのだ! このままではリックが……いや、村の未来が危うい!」
「村の未来!?」
アニーはぽかん。だがその後ろでリックは小さく「えっと……ぼく、べつに元気ですけど……」と呟いた。
しかし、ルークの耳には届かない。
「これは大問題だ! すぐに肉を調達しなければ!」
「で、でも畑の仕事もありますし……」
「そんなものは後回しだ! 肉だ! 肉を狩るぞ!」
こうしてルークの暴走が始まった。
◆狩猟大会、開催!?
翌日。
なぜか村の広場には人だかりができていた。
「えー、本日、ルークの発案により――“第一回・村人総出の狩猟大会”を開催します!」
「おおおおおっ!」
なぜこうなったのか村人も分からない。けれど祭り好きの彼らは「面白そう!」でまとまってしまったのだ。
「優勝者には豪華賞品――アニーお手製の“肉料理一年分券”が贈られます!」
「おおおおおおおおっ!!!」
「って勝手に賞品決めるなぁぁぁ!」
舞台裏でアニーが悲鳴を上げたが、もう遅い。群衆は盛り上がっている。
「よし、リック! お前も出場だ!」
「え、ぼくも!?」
「当然だ! 肉はお前のために用意するのだからな!」
「……あの、べつにそんなに欲しいわけじゃ……」
「遠慮するな! これは兄としての義務だ!」
「兄!? ルーク何言ってんの!?」
アニーの必死のツッコミも、ルークの耳には届かない。
◆親子の因縁対決!?
やがて大会が始まった。
弓や槍を持った村人が森へ散り、獲物を追う。
ルークも当然参戦していた。
「見ていろ! 俺がリックのために肉を狩りまくってやる!」
そこへ――。
「おいルーク」
低い声が背後から響いた。
振り返れば、剣を担いだ父・アベル。
「父さん!?」
「お前……また妙な騒ぎを起こしたな」
「ち、違う! 今回は村のためだ!」
「ふん……お前一人で暴走させるわけにはいかん。俺も出る」
こうして父子そろっての参戦が決定した。
村人たちがざわめく。
「アベルさんが出るなんて……」
「これはもう優勝候補決まりだな」
◆大会の顛末
その後の展開は語るまでもない。
ルークは猪を追いかけ、鹿も追い、うさぎと取っ組み合い……。
やはり、狩猟は下手だった。
そして、大会は父アベルが圧倒的な力量を見せつけた。
「ふんっ!」
アベルの剣が一閃。巨大なイノシシが倒れ伏す。
「優勝――アベル様!」
「おおおおおおおおっ!!!」
会場は大歓声に包まれた。
◆レイナの鉄槌
「ふぅ……まあ、これで肉は十分だな」
「父さん、すごかったな! さすがだ!」
「うむ。だが――」
その時、静かな声が響いた。
「……あなたたち」
ぎくり、と父子の背筋が凍る。
そこに立っていたのは、腕を組んだ母・レイナ。
「畑を放って何をしているのかしら?」
「い、いや、これはリックのためで……」
「そうそう、村の未来のためで……」
「――言い訳無用」
次の瞬間、父子は仲良くレイナに正座させられていた。
「まったく……あなたたちはどうしてこう、似るのかしら」
「す、すみません……」
「す、すみません……」
◆そして、可愛いミーナ
「でもでも!」
その時、小さな声が響いた。
ミーナが両手いっぱいに肉を抱えて駆け寄ってくる。
「ミーナ、お肉もだいすき! リックもいっしょに食べよ!」
「えっ……あ、ありがとう……」
リックは頬を赤らめた。
ミーナが嬉しそうに笑うと、周囲の空気が和らいでいく。
村人もレイナも思わず苦笑い。
「……ほんと、ミーナが可愛いから許すけれど」
「……助かったな、ルーク」
「まったくだ……」
こうしてまた一つ、グランフィード家の騒動は可愛いミーナによって丸く収められたのだった。