猫たちの暴走で巨大カボチャ第二弾&王都大混乱編
前回の「巨大カボチャ騒動」から、まだひと月も経っていなかった。
ミーナ農園の片隅、しろ・ジル・モモ・とらの四匹が、またもや畑の真ん中に集まっていた。
「前のより、もっと大きくできるにゃ」
「前回はルークに見つかる前にスープがなくなっちゃったんだよにゃ」
「今回は二倍、いや三倍だにゃ!」
「わぁ〜〜、楽しそう〜〜にゃぁ!」
彼らが狙っているのは、前回の暴走の残り種から育ったカボチャ。
村の老人が「これ以上は大きくならん」と太鼓判を押したそれに、猫たちは得意げに持ち出した“特製栄養スープ”をドボドボ……いや、ジャバジャバと惜しみなく注いでいった。
翌朝――。
「ミーナ、ちょっと来てくれ!」
ルークの声に飛び出したミーナは、畑の中央で息を呑んだ。
そこには、人の背丈を優に超える、鮮やかなオレンジの巨塊が鎮座していた。
「カ、カボチャ……? なんでこんなに……」
「原因はだいたい予想がつくが……」
ルークが横目で四匹を睨むと、猫たちは一斉に「にゃーん」と澄ました顔をした。
こうして、巨大カボチャ第二弾が収穫されることになった。
村人総出での作業が始まったが、そのサイズは常識外れ。普通の荷車にはとても載らない。
結局、特製の台車を作り、十数人がかりで押すことに。
「王都へ持っていけば、高値で売れるぞ!」
「いや、見世物にしてもいいんじゃないか?」
盛り上がる村人たちに、ルークが頷く。
「市場で売る。宣伝にもなる」
猫たちは台車の上からご満悦で、「にゃふ〜」「見ろ見ろ〜」と手(前足)を振っていた。
そんな折――
「ごきげんよう、皆様」
上品な声と共に、馬車が到着。降り立ったのはセレナ嬢と、完璧な背筋で従うギャリソン執事であった。
「わぁぁ! セレナぁぁっ!」
ミーナが駆け寄ろうとするが、ギャリソンがすっと抱き上げた。
「お嬢様、お召し物が汚れます」
「え、あ、うん……」
ミーナはおとなしくギャリソンの腕の中でにこにこしている。猫たちはその様子を見て、「にゃ? 抱っこ? いいにゃー!」「前も見たことある気がするにゃ」と一斉に飛びつき、ギャリソンの足にまとわりつく。完璧な動作で回避し続ける執事、さすがの職人技である。
「ところで、その……大きすぎるカボチャは?」
「……またまた、やらかした」ルークが短く答えた。
そして運命の搬送日。
巨大カボチャは台車に固定され、王都行きの馬車隊が編成された。ギャリソンは隊列の先頭で警備指揮を務める。
だが猫たちは、なぜかそのカボチャを「にゃんこ基地」に認定してしまった。
「にゃー! 出発進行なのにゃ!」
つるにぶら下がり、転がそうとする猫一匹。追いかける猫二匹。台車が揺れた瞬間――。
ガタンッ。
カボチャが転がり落ち、ゆっくり、しかし確実に大通りへ向けてゴロゴロと転がり出した。
「追えーっ!」
ギャリソンの指揮の声が響き、騎士たちが全力疾走。ルークはミーナの手を引きつつ、「これ、どこかで見たような展開だぞ!」と叫ぶ。
「でも楽しいーっ!」とミーナ。
王都の広場では、露店の屋台が次々と避け、観光客が悲鳴を上げる。
「止めろおおっ!」
ギャリソンは馬から飛び降り、正面からカボチャの進路を塞ぐ。しかし、そこへ猫たちがなぜか集まり、カボチャの上に飛び乗った。
「にゃー! 流れる景色たのしいにゃ!」
巨大カボチャは猫たちを乗せたまま速度を増し、ギャリソンの目の前を通過。
「……」
一瞬で進路変更、横の路地から回り込み、見事なタイミングで飛び蹴りを入れるギャリソン。カボチャはゴロンと横転し、ついに停止した。
結局その巨大カボチャは王都の秋祭りの目玉展示品となり、「猫の乗った幻のカボチャ」として大人気に。
セレナは微笑みながら、カボチャの前でミーナと記念写真を撮っていた。
「……なぜ私が蹴った瞬間の姿だけ絵葉書になっているのだ」
なお、その絵ハガキはご婦人たちに大人気であった。
ギャリソンのため息は秋空に溶けた。