猫たちのいたずらで巨大カボチャ誕生
秋の気配が村を包み始めたある朝。
ルークの畑は、どこか様子がおかしかった。
朝露に濡れた葉の向こうで、まるで小屋ほどもあるオレンジ色の物体が、どっしりと鎮座している。
「……なんだ、あれ?」
早朝の収穫に来た村人のひとりが立ち止まり、目をこすった。
だが見間違いではない。それは確かに——カボチャだった。
普通のカボチャの十倍以上もある、怪物級のサイズだ。
そこへ、のんびり畑道を歩いてきたミーナと猫たちの姿が見える。
ミーナは両手に収穫かごを抱え、猫たちはその周りをぴょんぴょん跳ねていた。
ジルはしっぽを高く立て、モモは葉っぱをくわえ、しろはなぜか耳に土がついている。
「おはよーございますっ!」
明るく挨拶したミーナの視線が、巨大カボチャに吸い寄せられた。
「……うわぁぁぁ! なんなのです!!これぇぇぇっ!?」
声に反応し、ルークが道具小屋から顔を出した。
「やっと見つけたか。朝からみんな呼びに来るから、俺も見に行ったらこの有様だ」
近づくと、そのカボチャは表面がつやつやで、鮮やかなオレンジ色をしていた。
まるで童話の馬車になりそうなほど立派だ。
「これ……どうしてこんなに大きくなっちゃったの?」
ミーナが首をかしげると、背後からジルがふふんと鼻を鳴らした。
「にゃっ(オレたちの仕事の成果だな)」
「にゃふ(おいしいものを食べさせようと思ってやったのにゃ)」
「にゃにゃー(副作用にゃ)」
どうやら猫たちが、また何かしでかしたらしい。
■ 事件の発端
三日前の夜、ミーナはアロエの仕込みで大忙しだった。
ルークも瓶詰め作業に追われ、猫たちはすっかり放置されていた。
暇を持て余した猫たちは、畑で遊び始める。
特にしろが、倉庫から「ルークが大事にしていた肥料袋」を勝手に引きずり出したのが運の尽きだった。
「にゃー(これ、なんか甘い匂いがする)」
「にゃにゃっ(カボチャのところにまくにゃ!)」
……そして夜のうちに、カボチャの根元へ大量の肥料を投入。
しかも、モモが水瓶をひっくり返して畑を水浸しにし、ジルがその上を踏み固めるという、謎の連携プレー。
結果、たった三日でこの規格外サイズに成長してしまったらしい。
『流石、チャラいスーツの男の恩恵を与えられたルーク(の肥料)であった。』
■ 村人たちの大騒ぎ
「こりゃ祭りの目玉になるぞ!」
「こんな大きいカボチャ、王都に送ったらひと財産だ!」
村人たちは大興奮で集まってきた。
子供たちはカボチャの周りを走り回り、大人たちは測量棒を持ち出してサイズを測り始める。
直径はなんと二メートル近く。重さはおそらく……とても人力では持ち上がらない。
ミーナはというと、目をきらきらさせてカボチャに抱きついていた。
「わぁ……まるでおっきなベッドみたい! ここでお昼寝できそう〜!」
ルークが額を押さえる。
「おい、それ腐る前になんとかしないと大変なことになるぞ」
そんな中、猫たちは誇らしげに胸を張っている。
「にゃふ(オレたちの功績をもっと褒めるにゃ)」
「にゃっ(ごほうびに魚くれ)」
■ 王都への出荷か、祭りか
村長が腕を組んで唸った。
「さて、どうするか……王都に送れば名が売れる。だが、この大きさじゃ運ぶのが……」
ルークは計算を始める。馬車を何台繋げればいいか、途中の橋を渡れるか、保管の問題は……
だがその横で、ミーナはカボチャを見つめながら何やら企んでいた。
「これ……みんなで食べられますよね?」
「食う気か……!?」
しかし村人たちからも「そうだ! 収穫祭のメイン料理に!」という声が上がる。
結局、この巨大カボチャは村の収穫祭でお披露目されることになった。
■ 収穫祭当日
祭りの日、カボチャは広場の真ん中に鎮座していた。
飾りつけをした猫たちが、上にちょこんと乗って観客を見下ろす。
ルークは大鍋でカボチャスープを作り、ミーナはカボチャパイやプリンをせっせと配る。
「おいしい〜!」
「甘みがすごい!」
村中が笑顔であふれた。
ミーナは疲れも忘れて走り回り、猫たちはおこぼれをもらってご満悦。
ルークはそんな光景を見ながら、ふっと笑った。
「……まあ、結果オーライってやつか」
そして夜、祭りの後片付けが終わった頃——
王都から一通の手紙が届く。
『次回は、その巨大カボチャも“猫印”でお願いします』
「ええぇぇぇぇ!?」
ミーナの叫びが、秋の夜空に響いた。
横で猫たちが胸を張る。
「にゃっ(次はもっと大きくするにゃ)」
「にゃふ(王都制覇も近いにゃ)」
こうしてまた、新たな騒動の予感が漂い始めていた。
……やっぱりミーナは可愛かった。