アロエ放置の副作用!? 村を揺るがす巨大トウモロコシ事件
――あの日、すべてのきっかけは「アロエ作業に夢中になりすぎたこと」だった。
王都からの注文ラッシュに追われ、ルークとミーナは朝から晩までアロエ畑に張り付きっぱなし。猫たちも例によってアロエの瓶の上で日向ぼっこしたり、収穫カゴの中に丸まったりと、邪魔と応援の境界線があやふやな役割を果たしていた。
「にゃふ……(今日は瓶の番をするにゃ)」
「いや、それフタの上で寝たいだけだろ」
「にゃっ(否定はしない)」
そんな調子でアロエに集中していたせいで――他の作物たちは、完全に放置されていた。
特に、畑の端っこでこっそり植えてあったトウモロコシ。
村の子供たちに配るための分だから、特に急ぎの収穫もせず、放っておいたのだが……。
二週間後。
「……ルークさぁん。ちょっと、来てもらえますか」
村の青年トムが、なぜか顔を青くしてやってきた。
「どうした? また納品の相談か?」
「いや、それが……ちょっと畑の端が……」
案内されて行ったその場所で、ルークとミーナは固まった。
「……え、何これ」
ミーナが目を丸くした。
そこには――見上げるほど巨大に育ったトウモロコシが、そびえ立っていた。
高さはゆうに大人三人分。茎は太ももほどの太さで、葉はバサバサと風に揺れ、まるで森の中のヤシの木のよう。
そして何より驚いたのは、その実の大きさだった。
ひとつのとうもろこしが、樽ほどのサイズになっている。
「……これ、どうやって収穫すんだ?」
「にゃふ(オレの爪でも無理だな)」
「にゃー(焼きトウモロコシにするなら村一つ分だな)」
猫たちは既に食べる方向で話を進めていた。
村中が騒ぎになった。
巨大トウモロコシは、道端からでも見えるほど目立ち、噂を聞きつけた人々が見物に集まってくる。
「こりゃ祭りに出せるぞ!」
「いやいや、これ落ちてきたら家が潰れるだろ」
「食べきるのに一年かかるな……」
ルークは頭を抱えた。
アロエにかまけすぎて肥料の管理や水やりが不均等になったこと、そして猫たちが勝手に畑の害虫を追い回して追肥のタイミングを狂わせたこと……それらが全部合わさって、奇跡の巨大化を招いたらしい。
「どうするんですか、ルークさん!」
「とりあえず倒れたら危険だ。支えを作るぞ!」
巨大トウモロコシ救出作戦が始まった。
村人総出で木の杭を打ち込み、縄で幹を固定する。
ミーナも張り切って走り回るが――
「ミーナ! そこは猫じゃない!」
「にゃっ(あ、縄を齧るな!)」
ジルが器用に縄を噛み切り、支えがグラッと揺れる。
「きゃあああ!」
慌ててミーナが飛びつくが、なぜか逆方向に引っ張ってさらにバランスを崩す。
「……お前ら、助けてるんだよな?」
「にゃふ(もちろんだ)」
「にゃ(もちろんじゃない)」
収穫の日。
ルークは大きな鋸を手にし、村の男衆とともに巨大トウモロコシの茎に取り掛かった。
「よし、せーの!」
バサッ――と葉が落ち、ゴウン、と鈍い音を立てて実が地面に転がる。
ドォォォン!
地面が揺れた。
子供たちが歓声を上げ、大人たちは目を丸くする。
「……でかっ」
「これ、どうやって料理する?」
「半分は保存用にして、残りは――」
その時だった。
猫のモモがコロコロ転がる巨大トウモロコシに飛び乗り、全力で爪を立てた。
ザシュッ――と皮が裂け、黄色い粒が大量にこぼれ出す。
「わああああ!」
「にゃふふふ! おやつの雨だ!」
村中に甘い香りが広がり、子供も猫も粒を拾って食べ始める。
ミーナも頬いっぱいに粒をほおばりながら笑っていた。
「……まあ、祭りだなこれは」
ルークは苦笑し、巨大トウモロコシを見上げた。
こうして「巨大トウモロコシ事件」は村の記録に残る騒ぎとなり、その年の秋祭りは例年以上に賑やかなものとなった。
しかし、トウモロコシだけではなかった……。
――そう、猫たちは密かに次の巨大野菜を狙って畑をうろつき始めていた。