王都出荷分ひっくり返し事件! ~ミーナの暴走と猫たちの珍行動~
「にゃっ!? あわわわわわっ!」
「お、おい! こっちへ来るなぁーっ!」
木の桶がひっくり返る音。ぬるぬるとした何かが床に広がる気配。
ルークは嫌な予感を覚えつつ、納屋の扉を開けた。
「……何してんだ、お前ら」
そこには、見事に桶を倒してしまったミーナと、緑色の液体まみれになった二匹の猫がいた。
床一面に広がるそれは、アロエを加工して作った貴重なジェル。
本日、王都へ送る予定の、完成品の半分近くだ。
「うわぁぁぁっ!? これ、今日の出荷分だぞ!!」
「うぅ……だって、この子たちが……」
「にゃー(知らん)」
「にゃふ(たまたまだ)」
猫たちは悪びれる様子もなく、ぺろりと足についたジェルを舐めている。
いや、それ食べ物じゃないからな。
ルークは頭を抱えた。
この分じゃ、王都の注文に間に合わない。だが事情を説明しても納得してもらえる相手じゃない。
何より、王都の貴族婦人たちはこのアロエジェルを「美容の秘薬」と信じて楽しみにしているのだ。
「……よし、これから(もう夜だったわ)……いや、明日だな!追加分を作るぞ」
「わ、わたしもやる!」
「お前はまず、ジェルで滑るのやめろ」
ミーナはすでに足元がぬるぬるで、漫画のようにツルンと転びそうになっていた。
◆ミーナ、暴走モード突入
翌朝、畑に着くやいなや、ミーナは小さなバスケットを背負い、猫たちを従えて突撃した。
ルークが指示を出す前に、彼女は勝手にアロエの葉を引っこ抜きはじめる。
「これも! これも! 全部持ってく!」
「待て、そんなに引っこ抜いたら株が……!」
「にゃっほー!(狩りの時間だー!)」
「にゃふふ!(葉っぱじゃれじゃれー!)」
猫たちは葉のトゲ部分を叩いて遊び始め、それを見たミーナも負けじと――何故か葉っぱを剣のように構えた。
「必殺! アロエソード!!」
「誰が必殺だ、誰が」
そして案の定、ミーナは足元の葉っぱに引っかかって豪快に転び、猫たちがその上を飛び越えていく。
トゲに刺さらないあたり、猫の運動神経は恐ろしい。
◆猫たちの珍行動
収穫を進めていると、片方の猫がどこからかヒヨコをくわえて戻ってきた。
「にゃーん(おみやげ)」
……いや、それ全然関係ないから。しかも生きてるし。
もう一匹はアロエの葉を咥えたまま木の上に登り、そこから落としてくるという謎の遊びを始めた。
ミーナはそれを必死にキャッチしようとするが、タイミングがズレて頭に直撃。
「いたっ!」
「にゃふふ(成功!)」
◆加工所での大騒ぎ
何とか追加分のアロエを収穫し、加工所に戻ると、ミーナは勢いそのままに作業へ。
葉を切ってジェルをすくう係を担当したが……やはりハプニングは起きる。
「わわわっ! ぬるぬるが手から逃げたー!」
「ジェルは逃げねぇよ」
「にゃー!(今のうちに!)」
猫がそのジェルを手でちょいちょいっと触り、床にパタパタと肉球跡をつけていく。
後にこの「緑の肉球模様」は、村の子どもたちの間でちょっとした流行になるのだが、それはまた別の話。
◆予想外の救いの手
日も暮れかけた頃、ルークはどうにか追加分を完成させた。
しかし、やや量が足りない。困っていると、村のパン屋の娘が現れた。
「ルークさん、余ってたアロエ石けん持ってきたよ!」
「え、石けん?」
「うん、これも王都の婦人たちに人気あるんでしょ?」
なるほど、ジェルだけじゃなく加工品も一緒に送れば、量の不足を補える。
王都の客層なら、むしろ「バリエーションが増えた!」と喜ぶはずだ。
◆結末
こうして、王都への荷はどうにか整った。
ルークは納屋に積まれた荷車を見て、ほっと息をつく。
「お前ら……もう二度と出荷分を倒すなよ」
「にゃー(たぶん)」
「にゃふ(約束はできない)」
ミーナはというと、全身アロエの香りをまとってニコニコ笑っている。
「えへへ……でも、いっぱい作れてよかったね!」
「お前のおかげ……とは言えなくもないな」
その笑顔につられて、ルークも少しだけ口元を緩めた。