アロエ品切れ!?村総出の収穫大作戦
アロエ加工品が村で大人気になってから、一週間も経たないうちに――。
「……もう無い」
ルークは畑のアロエ畝の前で、腕を組んで呟いた。
そこにあったはずの瑞々しい緑の葉は、ほとんど切り取られ、残っているのは小さな株と新芽ばかり。
「にぃにー!」
背後から駆け寄ってきたミーナが、はちみつ瓶を両手で抱えている。
「またお客さん来たよ! “このジェル、もう売ってないの?”って!」
「……困ったな、在庫がないんだ」
「ざいこ?」
「つまり、もう作れないってこと」
ミーナは「えー!」と目を丸くして、両手を広げる。
その隣で、茶トラ猫と黒猫が同じポーズで前足をぱっと開く。
そのシンクロ具合に、ルークは思わず口元を緩めてしまった。
その日の夕方、ルークは村の広場で状況を説明した。
「アロエが足りなくなったので、収穫できそうな場所を探したいんです。もし見かけたら教えてください」
話を聞いたおばあさんが手を打ち、「あら、川沿いに生えてたような気がするよ」と答えた。
若い農夫は「丘の向こうの放棄畑にもあったはず」と加える。
するとミーナが「じゃあみんなで探検だ!」と張り切って叫び、自然と村総出のアロエ探索隊が結成されることになった。
翌朝、まだ朝露の残る時間帯。
集合場所の広場には、籠や鍬を持った村人たちが集まっていた。
ミーナはというと、頭に小さな麦わら帽子、背中にちいさな布袋。
中には猫用の干し魚と、なぜかクッキーがぎゅうぎゅうに詰まっている。
「にゃっ!」
茶トラ猫が前足で地面を叩き、黒猫がしっぽを高く上げる。
どうやら彼らもやる気満々だ。
ルークはそんな三人組(+二匹)を見て、内心で「いや、仕事になるかな……」と思ったが、口には出さなかった。
最初の目的地は川沿いの草地。
朝日が水面を黄金色に染め、さらさらと風が渡る。
村人たちはしゃがみ込み、葉の形を一つ一つ確かめながら探す。
「にぃにー、これ?」
ミーナが見つけたのは、尖った葉の束――しかしルークが覗くと、それはただの野生のユリだった。
「残念、それはアロエじゃない」
「むぅ……」
しかしその横で、茶トラ猫が本物のアロエを前足で掘り返していた。
「にゃあ!」
黒猫も「こっちだぞ!」と言わんばかりにしっぽをぶんぶん振る。
ミーナは猫たちを抱き上げてくるくる回り、
「さっすが、ミーナ隊のエースにゃん!」と褒めちぎる。
昼前には丘の向こうの放棄畑にも到着。
そこは背丈ほどの雑草が生い茂り、少し進むたびに葉が頬や腕をかすめる。
ミーナは「ジャングルだ!」と目を輝かせ、猫たちを先頭に進む。
突然、黒猫が立ち止まり、じっと草むらを見つめた。
次の瞬間――ばさばさっと草をかき分け、大きなアロエの群生が姿を現した。
「わぁ……!」
陽光を浴びた肉厚な葉は、透き通るように鮮やかな緑。
ルークも思わず息を呑んだ。
「これなら、しばらくは十分だな」
村人たちも歓声を上げ、籠や袋に葉を詰めていく。
収穫の帰り道、ミーナは猫たちを両腕に抱えて歩いていた。
「にぃに、これでまたお店できるね!」
「そうだな。でも今度は計画的に使おう」
「けーかくてき?」
「……つまり、全部売り切っちゃわないように少しずつ出すってこと」
「ふーん……でも、ぜーんぶ欲しいって人がいたら?」
ミーナが小首を傾げると、猫たちも同時に首を傾げる。
その愛らしさに、ルークは思わず笑い声を漏らした。
こうして、村総出のアロエ収穫大作戦は大成功を収めた。
広場に戻ると、ミーナはみんなに干し魚を配り、猫たちは堂々と真ん中に座っている。
夕陽に染まる村は、笑顔と緑の葉であふれていた――。