ミーナと猫たち、アロエで村を席巻!? ~真似っこ研究・暴走編~
――翌日。
朝から村は妙な騒がしさに包まれていた。
ルークは畑で草取りをしながらも、そのざわめきが気になって仕方ない。
なんとなく胸騒ぎがする。嫌な予感というやつだ。
「……まさか、な」
昨日のミーナと猫たちのアロエ実験を思い出す。
あの調子だと、ろくでもない方向に突き進むのは目に見えている。
そんな時――。
「にぃにーー!!!」
元気すぎる声とともに、道の向こうからミーナが全力で駆けてきた。
その両手には……何やら大きな籠。そして籠の中には、切られたアロエの葉が山盛りになっている。
「おい、それ……」
「みんなにぬってあげるの!!」
「ぬるって……お前、それ村中に配ってんのか!?」
「うん!!」
――やっぱりか。
ミーナの“アロエパック”キャラバン
事の発端は早朝らしい。
ミーナは猫二匹を連れて村を回り、「これつめたくてきもちいいよ!」と次々にアロエペーストを作っては人の顔や腕に塗っていった。
猫たちは荷車の上にちょこんと座り、得意げに「にゃー」と鳴いている。まるで助手か広報担当のようだ。
「にゃあ(次のお客さんはこっちにゃ)」
「にゃにゃ(塗る準備できたにゃ)」
――もちろん、ルークにそんな翻訳は聞こえていないが、態度だけは完全にそう見える。
村の人々も最初は笑って受け入れていた。
「子どもが遊んでるだけだろ」と思っていたのだ。
しかしミーナは本気だった。アロエの葉を切っては、臼と杵(借り物)で丁寧にすり潰し、器用にペースト状にする。
それを「はい、ぬりぬりー」と嬉しそうに塗りたくるのだ。
「おお……ひんやりして気持ちいいな」
「お肌つるつるになるかも!」
「ほんとか?」
「たぶん!」
――たぶんって言ったぞ今、とルークは遠くから思わず突っ込んでしまった。
予想外の大反響
午前のうちに、村の広場にはミーナの“アロエ体験コーナー”が自然発生していた。
長椅子に腰かけたおばあさんたちが順番待ちをしており、子どもたちはその横で猫と遊びながら自分の番を待っている。
「お前ら……何やってんだほんと……」
ルークは頭を抱えつつも、少しだけ笑ってしまった。
皆が楽しそうにしているのを見ると、強く止める気がなくなってしまう。
白黒猫は器用に葉を前足で押さえ、かじって中身を露出させる。
それをミーナがすくってペーストに。
三毛猫はなぜか長椅子に座るおばあさんの膝に飛び乗り、「にゃあ」と鳴きながらゴロゴロ喉を鳴らす。
――接客担当までいるのか、この“研究所”は。
ルーク、研究者モード発動
とはいえ、アロエには実際に肌の鎮静作用があることは前世の知識で知っている。
ルークはこっそりノートを取り出し、ミーナのやり方や村人の反応を書き留め始めた。
――副作用はないか? かゆみや赤みは? どのくらいで乾く?
そんな実験記録のようなメモをとりながら、時々ミーナの手元を観察する。
「にぃに、これでお店できるかな?」
「……まだ早いな」
「じゃあ練習!」
「練習って……もう十分やってるだろ」
ルークは苦笑するが、同時に心の中でこう思っていた。
――このままアロエ加工品が作れれば、村の新しい特産になるかもしれない。
事件は昼下がりに起きた
広場が笑い声で満ちていたその時――。
「わぁっ!」という子どもの叫び声が響いた。
見ると、猫の片方がアロエペーストの桶をひっくり返し、地面にぬるぬるした緑色の塊が広がっていた。
陽の光を受けて、泥の上でとろりと光るその色は、まるで巨大なカエルでもひっくり返ったように見える。
「にゃっ!?」
「にゃあああ!!(足がすべるにゃ!!)」
三毛猫が慌てて駆け回り、その足跡が広場中に緑の肉球模様をつけていく。
白黒猫もそれに釣られて走り出し、結果、村人の服や顔に予期せぬ“ペイント”が飛び散った。
「わあ、冷たい!」
「おい、服が……!」
「ははは、模様になったな!」
混乱の中でも笑いが起こるあたり、この村はおおらかだ。
しかしルークは慌てて走り寄り、ミーナを抱き上げた。
「こら、もう今日はおしまいだ!」
「えー!」
「えーじゃない、片付け!」
「でも……楽しかったのに」
「楽しいのはわかる。でも安全第一」
ミーナは少し不満そうにしつつも、猫たちと一緒に床を拭き始めた。
その後ろ姿を見て、ルークはふと笑みを漏らす。
――こうして動き回ってる姿が、一番元気で可愛いな。
そして夜
片付けが終わり、村はすっかり静けさを取り戻した。
ルークは自室でアロエの葉を一枚手に取り、明日の計画を考えていた。
ミーナと猫たちの暴走は予想外だったが、そのおかげで村人たちの反応や使用感を集められた。
次はもっと効率的に、ちゃんとした加工品を作ってみたい。
そんなことを考えていると、仕切りがそっと開く音がした。
「にぃに……」
顔を出したミーナは、少し眠たそうな目をしていた。
「今日、楽しかったね」
「ああ……まあな」
「明日もやろ?」
「……今度は計画的にな」
「けいかくてき?」
「そう、“ちゃんと準備して”ってこと」
「じゃあ、ねこたちにもやくわり作る!」
「……それは計画的って言うのか?」
ミーナはくすっと笑い、猫たちを抱えて部屋に戻っていった。
その背中を見送りながら、ルークはため息をつきつつも頬を緩める。
――さて、次は何をやらかすことやら。