ミーナと猫たち、真似っこ研究開始!? ~アロエ大混乱~
翌朝――。
ルークはまだ寝ぼけ眼のまま、家の裏手の畑に出ていた。
空気はひやりとしていて、鼻をくすぐる土の匂いと草の青臭さが、いかにも早朝という感じを漂わせている。
昨日植えたアロエは、朝露をまとってぴんと葉を伸ばし、意外にも元気そうだった。
「よし、悪くないな」
ルークはしゃがみ込み、葉の色つやを確認する。
葉の表面に水滴がいくつも並び、それが朝日を受けて宝石のようにきらめく。棘は相変わらず鋭く、小さな生き物がうっかり触れば痛い思いをしそうだ。
そこへ――。
「にぃにーっ!!!」
甲高い声とともに、背後からどすどすと駆けてくる足音。
「おっと」
ルークが振り向くと、ミーナが息を弾ませながら飛び込んできた。
両手には何やら抱えた袋。しかも袋の口から、猫の耳がぴょこっと飛び出している。
「朝ごはん……持ってきたよ!」
袋をがばっと開けると、中から猫が二匹、ぽすんと地面に降りた。白黒のブチ猫と、三毛のふわふわ猫だ。
「……お前、袋で猫を運ぶなって言ったろ」
「だって、一緒に見に行くって言うから」
「猫語わかるんか……」
「にゃあ(行くって言ったにゃ)」
「にゃう(言ったにゃ)」
――いや、今のはただ鳴いただけだ。
ルークは小さくため息をつきつつ、アロエの鉢を示した。
「ほら、これが昨日の特別植物だ」
「おぉー! とげとげ!」
ミーナは目をきらきらさせながら、しゃがみ込む。そして、いきなり葉に指を伸ばす。
「こら、触るな」
「ちょっとだけ……」
「いや、棘があるから」
「……うん、ちょっとチクってした」
「だから言っただろ」
その様子を見ていた猫たちは、なぜか同時に葉に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
「にゃあ(おいしそうに見えるにゃ)」
「にゃにゃ(食べられるのかにゃ?)」
「食べるな! 絶対食べるな!」
ルークの声に、二匹は「ふしゃっ」と軽く威嚇のような声を出し、しかしすぐにしれっと毛づくろいを始めた。
ルークは土に座り込み、アロエの効能や使い道を考え始めた。
「……まずは、葉を切って中身を観察して……」
その時、横からミーナが身を乗り出す。
「にぃに、わたしもけんきゅーする!」
「……ミーナが?」
「そう! ねこたちといっしょに!」
「いや、猫と研究って……」
しかしミーナの顔は真剣そのものだ。
そして、その後ろで猫たちが「にゃー」と鳴く。まるで「任せろ」とでも言いたげだ。
――絶対任せたらやばいやつだな、とルークは心の中でため息をついた。
ミーナ研究所(仮)
その日の午前中、ルークが畑で他の作物の手入れをしている間に、ミーナは庭の片隅で“研究所”と称するスペースを作り上げていた。
木箱を机代わりに置き、その上には小石、葉っぱ、泥団子、そして謎の木の枝。
猫たちはその横で毛玉になって丸くなっているが、たまに起き上がって木箱の上の物を転がして遊んでいる。
「じゃーん! ミーナけんきゅーじょ!」
「……いや、ただの物置じゃん」
「ちがうもん! ほら、これ!」
ミーナは得意げに、小さな瓶を取り出した。
中には、葉っぱを水に浸したような液体が入っている。
「なにこれ」
「アロエのお水!」
「……それ、さっき勝手に葉を切った?」
「うん!」
「うんじゃねぇよ……」
さらにミーナは別の瓶も見せてきた。
今度は、泥と葉っぱを混ぜた緑色のペースト。
「これ、ぬるやつ!」
「ぬるやつって……顔に?」
「うん!」
「……お前、どこでそんな美容パック的発想を」
「ねこたちもぬる?」
「ぬらんでいい」
猫たちは「にゃあ(嫌だにゃ)」と即答するかのように逃げていった。
事件発生
午後、ルークが試しにアロエの切り口を天日干しにして観察していると、ミーナの声が響いた。
「にぃにー! できた!」
振り返ると、ミーナの顔が……緑色だった。
しかも、猫の片方(三毛の方)の顔にも、うっすらと同じ緑色のペーストがついている。
「……なにしてんの」
「けんきゅー! これ、つめたいし、きもちいい!」
「猫は!?」
「ねこもつめたいって!」
「絶対言ってねぇ!」
三毛猫は「にゃう……」と小さく鳴き、白黒猫はその様子を離れた場所からじっと見ていた。
その目つきは、まるで「次は自分がやられるんじゃないか」という警戒そのものだった。
「ミーナ……いいか、アロエはちゃんと使い方を調べないと……」
「でも、きもちいいからいい!」
「……いや、まあ害はなさそうだけど……」
ルークは頭を抱えながらも、少し笑ってしまった。
ミーナの頬に貼りついたペーストからは、ほんのりと青臭い香りが漂う。
――この調子だと、次はもっと派手なことをやらかすに違いない。
そして予感は的中する。
翌日、ミーナと猫たちはさらなる“アロエ真似っこ研究”を繰り広げ、ついには村中を巻き込むことになるのだ――。