ルークの新作物チャレンジ!? ミーナと猫たちの大探索!
◆新しい種と、ちょっとした秘密
村の朝は、太陽が東の森から顔を出すよりも少し早く始まる。
小鳥たちのさえずりが葉の間をくぐり抜け、風はまだ夜の冷たさを残して畑を撫でていく。
ルークはその空気を吸い込みながら、畑の一角にしゃがみ込んでいた。
手には、薄茶色の布袋。袋の中で、カラカラと乾いた音を立てるのは、見慣れない色をした小さな種だ。
表面はほんのり紫がかっていて、光の角度によって青くも見える。
「これが芽を出してくれれば……」
ルークは呟き、手のひらにそっと数粒をのせた。
この村ではまだ誰も育てたことのない作物――旅の行商人から譲り受けた、ほんの一握りの種。
半信半疑だが、何か新しいことを始めたくなるのが、彼の悪い癖であり、良いところでもあった。
鍬で土を柔らかく耕し、小さな穴を掘って種を落とす。
その一連の動作は、静かで、丁寧で、まるで宝物を扱っているようだった。
◆可愛い乱入者
「にぃにーっ!」
背後から元気な声と小さな足音。
振り向くと、日差しをいっぱい浴びて髪をふわふわ揺らしたミーナが駆けてきた。
その後ろには、黒猫のシルル、白猫のモフ、三毛猫のミケが、三者三様の走り方で追いかけてくる。
「おはよ、ミーナ。どうしたんだ?」
「にぃに、それなぁに!? 新しいお菓子の材料になるやつ?」
ミーナは膝をついて、ルークの手のひらを覗き込む。目は好奇心で丸く、期待にきらきら輝いている。
「食べられるけど、まだお菓子になるかは分からないな」
「じゃあ、ミーナも新しいもの探してくるのです!」
その宣言と同時に、猫たちの耳がぴくりと動く。
シルルは低く短く「にゃっ」と鳴き、モフは小さく尻尾を振り、ミケはぱちぱちと瞬きをする。
この三匹にとって、ミーナの探検宣言は「楽しいことの始まり」の合図だった。
◆森への探検開始
ミーナは腰に小さな布袋をぶら下げ、猫たちを引き連れて畑を出発した。
行き先は村の裏手の森。春の木々はまだ柔らかい緑色で、枝の間からこぼれる光はやさしい金色を帯びている。
森に入ると、足元からふかふかの落ち葉の感触。
シルルは素早く前に走り出し、落ち葉の下を探る。
モフは小川のほうへ寄り道し、ぱしゃっと前足で水面をたたく。
ミケはといえば、木の幹をするすると登り、上からみんなの様子を観察している。
「にゃあにゃあ(それはただの石ですにゃ……)」
シルルが鳴いたのは、ミーナが両手で抱えた丸い石を見たときだった。
けれどミーナは胸を張って言う。
「これはきっと“お菓子石”です! 磨いたら甘くなるかもしれないのです!」
ミーナの想像力は、現実の理屈など軽々と飛び越えていく。
猫たちも、それを止める気などさらさらない。
◆珍品コレクション
昼過ぎまで、ミーナと猫たちは森を歩き回った。
そして袋の中に収まったのは――
苔だらけの石、傘の裏がやけに黄色いきのこ、そしてぴょんぴょん跳ねる元気なカエル。
モフは途中でカエルを捕まえ、得意げに持ってきたが、ミーナは「おともだち!」と言って抱え込む。
ミケは木の上から落ちた枝をくわえてきて、ミーナに差し出した。枝の先には小さなつぼみがついていた。
シルルは、森の奥で見つけた光るような小石をぽとんと足元に落とす。
「にぃに、これ全部新しい作物になるのです!」
帰り道、ミーナは袋を揺らしながら、満面の笑みを浮かべた。
◆畑での“発表会”
夕方、畑に戻ったミーナは、自分の戦利品を順番にルークの前に並べた。
まずは“お菓子石”、次に“ふしぎきのこ”、そして“おともだちカエル”。
最後に、ミケがくわえてきた小枝を土に差し込んで、「これも育つのです」と宣言した。
「……ミーナ、これはどうやって作物にするんだ?」
ルークは苦笑しながらカエルをそっと森に返し、きのこは別の場所に移した。
石と枝は、ミーナの“新作物コーナー”として畑の端に並べられる。
猫たちはその間を、まるで見張り番のようにうろうろと歩き回っていた。
◆水やりの時間
太陽が傾き、畑がオレンジ色に染まり始めた頃、ルークはジョウロを手に種の列へ水をやった。
そのすぐ横で、ミーナも小さなジョウロを握って“お菓子石”と枝に水を注いでいる。
シルルはその様子をじっと見つめ、モフは水のしずくを追いかけ、ミケは枝のつぼみを鼻先でつついていた。
「うん、やっぱりミーナの探検は……こうじゃなきゃね」
ルークは穏やかに笑いながら、まだ芽を出さない土を見つめた。
――可愛さで言えば、ミーナはもう、どんな作物にも負けないのだから。




