アニーとリックの農作業奮闘記
朝の農園は、夏の陽光に包まれ、空気にほんのり甘い匂いが混じっていた。
小鳥たちのさえずりをBGMに、アニーは腰に手ぬぐいを巻き、気合を入れる。
「よし、今日こそは畑をピカピカにしてやるわ!」
隣で鍬を持ったリックが、少し困ったように笑った。
「……アニー、昨日も同じこと言ってたよ?」
アニーは胸を張って言い返す。
「昨日は昨日!今日は今日!それに、ほら――」
ぱたぱたと軽い足音が近づいてくる。
ミーナが両手で麦わら帽子を押さえながら駆け寄ってきた。
その顔は、太陽みたいにきらきらしている。
「おはよー!アニー、リック!今日はミーナも手伝うよ!」
小さな手に握られているのは、ミニサイズのジョウロ。
水が入っているのか、歩くたびにちゃぷんちゃぷんと可愛い音がした。
「……可愛い」とリックが思わず呟いたのは、アニーにはちゃんと聞こえていた。
アニーは片眉を上げ、にやにやと口元を歪める。
「リック、あんた今ミーナのこと可愛いって――」
「言ってない!」
顔を真っ赤にして鍬を振るリック。
だが、その鍬は見事に空を切り、バランスを崩して尻もちをつく。
「きゃはははっ!」
ミーナの笑い声が、畑に鐘のように響く。
その笑いに釣られて、アニーまで笑い出した。
午前中は草取り作業。
ミーナはちょこんと膝をつき、小さな指で草をつまみ上げる。
一生懸命なその姿は、小さな妖精のようだ。
「ミーナ、そんな小さい草まで抜かなくても……」
リックが言いかけると、ミーナはぷくっと頬を膨らませる。
「だって、これも畑の野菜たちの栄養を取っちゃうんでしょ?抜くのです!」
きっぱりと言い切るその声に、アニーとリックは思わず顔を見合わせた。
小さいけれど、やる気は満点。
その姿がなんとも頼もしく、そして――やっぱり可愛い。
昼休み。
木陰でスイカを割ることになった。
棒を持ったリックが、目隠しをしてぐるぐる回る。
「もうちょっと右ー!」
「ちがうよー!左、ひだりー!」
ミーナの声は弾んでいて、笑いが混ざる。
ぱしん、と棒がスイカをとらえた瞬間、甘い香りが広がった。
ミーナは両手をぱちぱち叩き、「やったー!」と跳びはねる。
スイカを頬張ると、口の周りを真っ赤にして「おいしい!」と満面の笑顔。
リックもアニーも、つられて笑顔になる。
午後は水やり。
ミーナがジョウロを傾けると、きらきら光る水滴が畑に降る。
その光景は、まるで小さな女神が祝福を与えているようだった。
「リック、見て!」
ミーナが嬉しそうに指さす先、ひまわりが大きく首を上げていた。
「……ほんとだ。ミーナのおかげだね」
少し照れくさそうに言うリック。
アニーはそのやり取りを見て、ふっと笑った。
仲良くなった二人の空気は、農園の空気まで柔らかくしてくれるようだった。
夕暮れ。
茜色の空の下、三人は畑に並んで腰を下ろした。
頬に汗をにじませながらも、どこか誇らしげだ。
「今日、いっぱい頑張ったね」
ミーナの言葉に、アニーとリックは頷く。
「また一緒にやろうね!」
その笑顔に、二人は同時に答えた。
「もちろん!」
風が優しく畑を撫で、ひまわりたちがゆらゆらと揺れた。
まるで「おつかれさま」と言っているように。