「 とまとや、世界へ? そしてズッキーニの悲劇」
収穫祭から数日後。
ルークの畑の一角に、見慣れぬ馬車が止まった。
ぱかっ、と開いた幌から降りてきたのは、派手な羽根つき帽子をかぶった男――旅の行商人だった。
「おや、ここが噂の……“奇跡のとまとジュース”屋さんかね?」
「はいっ! いらっしゃいませっ!」
しゃしゃっと飛び出してきたミーナが、胸を張って答える。
にゃふぇがいつの間にか首に“レジ袋(麻袋)”を巻いて店員モードになっているのは、もはや村の日常だった。
「これは驚いた……お嬢ちゃんが?」
「はいっ、ミーナ店長ですっ!」
商人が一口ジュースを飲むや、目を見開く。
「おおお……これは! まさしく市場で売れる味!! 甘さと酸味のバランス、後味の爽やかさ、まさに奇跡……!」
「うふふふ……!」
「そこの畑のトマトかね? ちょいと分けてもらえるかな?」
「あー……それは兄の……」
「にゃふっ(すかさず在庫確認)」
結局、とまとの苗とジュース用果実のいくつかが、その場で商人に買い取られることになった。
ルークが軽く頭をかきながら言う。
「なんか、俺、農家チート……本当にあったのかもなぁ……」
「にゃふぇ(今さらかよ)」
その夜、ミーナはにゃふぇと作戦会議。
「ねぇねぇ、次はさ、ズッキーニしぼってみようよ!」
「にゃ……ふぇぇ?」
「だってさ、おにいのズッキーニもピカピカしてるし、きっといけるって!」
翌朝。
ズッキーニジュース、開☆店!!
客の反応:
「……」
「……これ、なんか……ぬるぬるしてる?」
「飲むきゅうり……?」
「うう、ちょっと無理……」
ミーナ、撃沈。
「うえぇぇん! なんでだよぉぉぉ! おにいの野菜なのにぃぃ!」
母がそっと一言
「……ミーナ、野菜って、しぼれば全部ジュースになるってもんじゃないのよ」
「ぐぬぬぬ……ミーナの敗北……!」
にゃふぇが静かに看板を裏返し、**“本日休業”**の文字を出した。
「にゃふぇ(見なかったことにしよう)」
それでも、その晩のルークのズッキーニ炒めはめちゃくちゃ美味しくて、ミーナはおかわりを三杯した。
「……ジュースじゃないときは……やっぱおいしい……」
「それが答えだよ」
「うぇぇぇん」
そして翌朝には、ちゃっかり**“にゃふぇクッキーととまとアイス”**の新屋台ができていたとか、いないとか。