アニーの畑と、謎の害獣パニック!? にぃに、狩りは得意じゃないのです!
◆アニーの悲鳴、ふたたび
朝焼けが村を包むころ、グランフィード家の納屋の裏手から、突き刺さるような叫び声が響いた。
「ルークーっ!! 畑があぁぁあぁっっ!!!」
その声に、寝ぼけていた猫たちがびくっと跳ね、ミーナもベッドから転げ落ちる。
「にぃにの名前っ!? 事件ですっ!」
ルークはため息をつきながらも、腰に手ぬぐいを差し込んでアニーの畑へ駆けつけた。
そして彼は、現場を見て目を疑った。
「……ひでぇな、こりゃ」
昨日までは青々と実っていたキュウリとインゲンが、無残にかじられ、
トマトの苗は引き抜かれたうえに、なぜか地面に埋め戻されていた。
「ルークぅぅぅ……わたし……泣きたい……!」
アニーが崩れ落ちそうになるのを、ルークは肩で支える。
「落ち着け、これは……完全に“動物の仕業”だ」
「動物!? ど、どんなの!?」
「たぶん……鼻が効くやつだな。食べごろの実を狙ってるし、根っこを探ってる……」
「じゃあ、こ、こわい牙とかあるの!?」
「……知らん。けど、いったん罠でも仕掛けるしかないか……」
◆ルーク、トラップ大作戦
ルークはその日の昼前、早速あらゆる罠を畑の周囲に設置した。
・吊り下げ式の小さなベル
・土に埋めた粘着ネット
・においで寄せる餌のわな
・猫たちの設置した“ねこ見張り台”
「……って、これは何?」
「にゃ!(見張るのです!)」
「にゃー!(高さが命!)」
ミーナは張り切って、案山子の服を“もっとおしゃれにする”と言い出した。
「ねこマントとリボンつけておけば、きっと動物もひれ伏すのですっ!」
「いや、逆に興味持たれそうなんだけど……」
ルークの不安は的中した。
その晩──
畑には、罠にかかった気配はなく、トマトだけが無くなっていた。
「……バカな……あんなに対策したのに……」
ルークは畑に正座してうなだれた。
◆父、参加する
「……なんだ、ずいぶん派手にやられたな」
突然、低く渋い声が背後から響く。
ルークが振り向くと、そこに立っていたのは、
長身でがっしりした体格、肩に弓を担いだ父・アベルだった。
「ちちぃぃ!!」
ミーナが駆け寄ると、アベルは無言で頭をなでた。
「畑、やられてるって聞いてな。様子見に戻ってきた」
「まさか……噂の“幻の森鼠”では……?」
「可能性はあるな。最近この辺りにも出るって話だ。目撃例はほぼないが……足跡が特徴的だ」
アベルはしゃがんで、土に残るわずかな痕跡を見つめた。
「確かにこれは……四本足で細長く、地面を掘るタイプの……」
「にぃに、には難しいのです?」
「いや、トラップじゃ無理だな。これ、空気の流れも読んでる。完全に“狩り”で対応するしかない」
「ちち、行くのですか?」
「うむ……一晩あれば十分だ」
◆アベル、狩りへ
その夜。
村の裏山には、月を背負って静かに歩くアベルの姿があった。
背中には静音弓。足元にはふわふわとついてくる猫の“しろ”。
「……お前も来るのか」
「にゃ」
「まあいい。足音は立てるなよ」
夜の森の中を進むこと数刻。
アベルは静かに腰を下ろし、罠を外した畑の一角で息を潜める。
そして──
「……来たな」
風が変わり、草が揺れた瞬間。
アベルの矢が、風の音を切り裂いた。
「──ッ!!」
矢は地面すれすれを飛び、草の中から逃げ出す“何か”の足元を正確に貫いた。
「これで……終わりだ」
アベルはゆっくり立ち上がり、猫しろとともに収穫を確認する。
◆そして、夜が明ける
翌朝。
アニーの畑に、ルークたちが再集合する。
「にぃに、罠が壊れてないのです!」
「ほんとだ……無事かも!」
アベルがやってきて、淡々と報告する。
「“森鼠”だった。今はもう、来ることはないだろう」
「えっ、もう対処したんですか!?」
「ああ。今夜からは安心して寝ていい」
ルークは思わず口笛を吹いた。
「……やっぱ、父さんはすげえわ……」
「当然だ。村一番の狩人だからな」
ミーナが拍手しながら「ちちは、かっこいいのですー!!」と歓声をあげる。
アニーはうるっとしながら、「ほんとに……ありがとうございました」と深く頭を下げた。
アベルはそれに軽く頷くと、すぐに次の仕事へと去っていった。
背中からは、「……ルーク、お前ももっと鍛えとけ」という声が届いた気がした。
◆畑は守られた!
こうして──
アニーの畑は再び守られ、作物たちは元気に実をつけるようになった。
「これでやっと、スープにできるトマトが育つね……!」
アニーは満面の笑顔。
そしてその隣では、ミーナが叫んでいた。
「にぃにっ! 今度は“畑でスイカ割り”をするのです!!」
「……ミーナ、お願いだから“育ててから”にしてくれ(スイカ割りやると色々人が集まってきそうだし、セレナとかセレナとかセレナとかがさぁ)」
「にゃー(先に育てて)」
「にゃっ!(割るのは最後!)」
村の朝は、今日もにぎやかで、どこか笑い声がこだましていた。