アニーの畑と、ルークの農業魔法
◆アニーの畑、大ピンチ!?
「……こ、これは……」
ルークは絶句していた。
目の前に広がるアニーの畑──それは、地面一面に雑草が生い茂り、
苗は枯れかけ、トマトは逆さに生え、何かの足跡までついている惨状だった。
「た、助けてくれるって言ったじゃない……」
アニーが額に汗を浮かべ、ルークを見上げる。
「……ああ、助けるとも。……けどこれは……なかなかハードだぞ」
猫たちは「にゃー」と一斉に鳴き、**「こりゃ手強いぞ」**という視線を交わす。
「ほら、見て。こっちの土なんかもう、カチカチでさ……水も全然通らないのよ」
「……ふむ。ま、あとは俺の出番ってわけか」
ルークは畑にしゃがみこみ、土にそっと手を当てた。
その手のひらから、静かに魔力がにじみ出す。
「ちょっとだけ、便利な体質なんだ」
◆ルークと“チャラいスーツの男”
かつて。
ルークが転生したその時──
まっしろな空間に、**“チャラいスーツの男”**が現れた。
「やあやあ、よく来てくれたね! 次の人生、なかなか大変そうだからさ……」
そう言って、男はまぶしい笑みを浮かべていた。
ネクタイは斜め、サングラスの奥の目はやたらキラキラしている。
「ちょっとだけ、ボーナスつけといたから」
そう言って、男は軽く指を鳴らした。
その瞬間、ルークの手の中に、見えない“なにか”がすっと流れ込んできた気がした。
「……ボーナス? 何を?」
「それはナイショ♡ 人生は、自分で試して楽しんでくれないと!」
ルークはそのまま、白い空間から放り出され、
気づけばこの異世界に転生していた──。
そして今──
畑に魔力を流し込むと、ひび割れていた土がゆっくりと柔らかくなり、
しおれていた苗たちが、しゃんと顔を上げ始めた。
「……やっぱり、あの時の“ボーナス”、だよなぁぁ、これ!?」
ルークはぼそっとつぶやいた。
「ルーク、今のって……魔法なの?」
「うーん……半分、体質、かな。俺が土を触ると、少しだけ……育ちが良くなるんだ」
「……すごい……っ」
アニーは本気で感動したように、目を見開いていた。
「ルーク、あなた、ほんとに“農業の騎士”だわ!」
「……やめてくれ、それは恥ずかしい」
◆ミーナのヤキモチ宣言
その日の午後、ルークがアニーの畑を手入れしていると──
木陰からひょこりと顔を出す影がひとつ。
「にぃにー……」
「ミーナか。どうした、畑の用事は?」
「してるのですっ。……でも、にぃにばっかり、アニーさんの畑を手伝ってるのです……」
ぷくぅっと頬をふくらませるミーナ。
後ろには、なぜか鎧兜をかぶった猫たち(※麦藁製)がぞろぞろと控えていた。
「ミーナもっ! トマト畑、超ピカピカにして、にぃににほめられたいのですっ!」
「……いや、もうミーナの畑は毎年豊作で……」
「まだ足りないのですっ!!」
ルークは苦笑しながら、
「わかったわかった、そっちの畑も明日手伝うよ」と答える。
その瞬間、ミーナの顔がパァッと輝いた。
「やったのですーっ!」
「……にゃ(単純)」
「にゃっ(でもかわいい)」
猫たちも一安心。
◆畑に咲いた、ほんのり未来
数日後。
アニーの畑には、トマトの苗が育ち、
ナスやピーマンの葉もぐんぐんと空に向かって伸びていた。
「……ほんとうに、ありがとう。あんなに荒れてた畑が、今じゃすっかり“生きてる”みたい」
アニーが心からのお礼を口にする。
「まあ……オレの力じゃなく、元気に育とうとする作物たちのおかげさ」
「でも、ルークがいなきゃ、こんな風にはならなかったよ」
隣でミーナが、「ミーナの畑も“ピカピカ”なのですっ!」と主張していたが、
ルークは「どっちの畑も最高だ」と言って、ふたりに同じ笑顔を見せた。
空は晴れて、風はやさしい。
土からは、豊かな生命の香りが立ちのぼる。
そして、ふと──ルークは空を見上げ、思う。
「……なあ、スーツの男。お前のボーナス、けっこう悪くないな」
その空に、返事はない。
けれど、風の音がどこか楽しげに吹き抜けていった。