「とまとや、開店!」
「おにいー! ミーナ、おみせひらくね!」
「ん? ……なにを?」
「と・ま・と・じゅーす屋さんっ!!」
朝からテンション高めのミーナが、畑の一角に“にゃふぇと組んだ木箱で屋台”を設営していた。
兄・ルークは腰に手ぬぐいを引っかけたまま、麦わら帽子をかぶりなおしながらその様子を眺める。
「……また、なんか始まったな……」
ミーナの傍らには、昨晩勝手に収穫されたらしいルークのプレミアムとまとが山盛り。
ちゃっかり村の物々交換所から“しぼり器”まで借りてきて、絞ってはにゃふぇに試飲させている。
「にゃっふぅぅ……!」
「ね!? すごいよねこれ! おにいのとまと、なにこれ、すごいよ!?!? これ、ミーナぜったい売れるって思うの!」
「いや、売るっていうか……それ、俺の畑の……」
「だから、もう看板描いたっ!」
バンッ!
木の板切れに可愛い文字で書かれた看板。
《みーなとまとじゅーす(ひゃくにゃふぇ)》
「単位がわからん!!」
「今ね、すでにね、子どもたちが行列つくってるの!」
見れば、村の子どもたちが「ミーナちゃーん!」「ジュースまだー!?」とわらわら集まってきている。
にゃふぇまで、ちいさな頭に三角巾を巻いて“店員風”に。
「うおおお、ちょっと、せめてコップ洗ってから!!」
「だいじょうぶだよ! にゃふぇがぺろってしてる!」
「ダメだわ!!」
とはいえ――
ジュースを飲んだ子どもたちの顔が、次々とパァァッと輝いていくのを見ると。
兄としては、もはや止める理由が見当たらなかった。
「……うん。うまいんだよな、ほんとに」
あの“ちょっとだけボーナス”が、本当に“すごくおいしい”を生み出している。
それを、ミーナがまっすぐに人に届けてる。
「……なんか、いいかもな。こういうのも」
気がつけば、大人たちも「ちょっとひとくち……」「えっ、これ甘い!? トマトジュースだよね!?」とざわつき始め、
「こりゃ来年はルークさんの苗、予約せんといかんぞ……」と、早くも農閑期の話まで飛び火していた。
こうして、とまとや・ミーナ商店(非公認)は、収穫祭の裏で小さな伝説を刻むことになったのだった。