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アニー 赤い案山子に夢を…

村の夕暮れ時、風が金色の麦の穂を撫でていく。


その麦畑の中央に、ぽつんと立っているのが──「赤い案山子」だった。


「……やっぱり、ここが一番、落ち着くな」


赤い髪をふたつに結ったアニーが、藁ぼうしを胸に抱き、そっと案山子の前に立つ。


「あなた、ずっとここで、誰かを守ってたんだよね」


そう、赤い案山子は、この村に来てからというもの、アニーのお気に入りの場所となった。




──時は少しさかのぼる。


「それでねっ、この子が“ミーナ・バオア・クー”なのですっ!!」


「うわあ……大きい……!」


ミーナの勢いに圧倒されながらも、アニーは“巨大な木の上の基地”を見上げた。

[ミーナ・バオア・クー登場するたびに変わっているが、気にしないでほしい]


そこには、色とりどりの布が張られ、猫たちがロープで昇降していたり、なぜかハンモックでくつろいでいたりと、自由気ままな空間だった。


「これ、ぜんぶ作ったの?」


「うんっ、にぃにと、猫たちと一緒に! すっごくすっごくたいへんだったけど、完成したのです!」


ミーナは誇らしげに胸を張り、猫のしろが“にゃーん”と鳴いた。


アニーはその中心に立っていた案山子に目を留めた。


赤い布のマントを羽織った、それはそれは不思議な案山子だった。


「……なんだか……あの人みたい」


「どの人?」


「ううん……小さい頃に読んだ絵本に出てくる、旅人みたいなひと。ちょっと頼りなくて、でも、優しくて、強いの」




それからというもの、アニーはよく畑の端っこまで足を運んでは、案山子の前で座り込むようになった。


ときには、お弁当を持って。


ときには、日記帳とペンを片手に。


「ねぇ……案山子さん。あたし、村に来て……楽しいけど、ちょっとだけ、さみしいの」


赤い案山子は何も答えない。


だけどアニーは、まるで“聞いてくれてる”気がした。


「ミーナは元気いっぱいで、ほんとにすごい子だよ。でも、あたしは……」


風がまた、麦の穂を揺らす。


案山子の赤いマントが、ゆらり、と揺れた。




ある晩。


アニーは夢を見た。


──麦畑の中、赤い案山子が、ゆっくりと歩いてくる。


「こんばんは、アニー」


「……え、しゃべった!?」


「うん。夢だから。いいでしょ?」


アニーは目を見開いたが、不思議と怖くはなかった。


案山子は、やさしく微笑んでいた。


「きみの夢、ずっと聞いてたよ。ここに来て、いろんなこと、頑張ってるんだよね」


「う、うん……でも……」


アニーはちょっとだけうつむいた。


「ミーナみたいに、元気に突っ走れないし、何でもできる子じゃないし……」


案山子は、そっとアニーの頭に手を置いた。──手? あれ、手、あるんだ。


「大丈夫。ミーナはミーナ、アニーはアニー。きみは、とっても優しくて、よく見てて、ちゃんと考えてる子だよ」


「……ほんと?」


「ほんと。ほら、きみは“赤毛のアニー”なんだろ?」


「ちがうよー!名前だけ似てるのっ!!」


アニーは笑った。なんだか、ずっと言いたかったことが、やっと言えた気がした。


「それにさ。きみには、ミーナっていう友達がいるじゃないか」


「……うん」


「そして、赤い案山子とも、ね」




朝。


目を覚ますと、陽が差し込んでいた。


アニーは飛び起きて、麦畑へ向かった。


赤い案山子は、いつも通りに立っていた。


「……ありがとう」


そう言って、アニーはそっと、案山子の足元に小さな花を添えた。




その日の午後。


ミーナと猫たちと一緒に、アニーはスケッチブックを持って現れた。


「ミーナ、これ、見てくれる?」


「わぁ、すてきな絵なのです! ……これは、案山子さん?」


「うん。“旅する案山子”っていう絵本にしたいなって思って」


アニーは照れくさそうに笑った。


ミーナは、ぱぁっと顔を輝かせて、猫たちと一緒に拍手。


「すごいのですーっ!! ミーナも出るのですか!?」


「……出てるよ。“元気すぎて時空を超える姫騎士”っていうキャラで」


「なにそれーっ!!でも似てるのです!!」


二人の笑い声が、麦畑に響いた。


赤い案山子は、今日も風に揺れながら、やさしく見守っていた。


夢の中と同じように──。



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