新しい住人と、赤毛のアニー!? 〜荷馬車と、はじまりの挨拶〜
その日の午後、グランフィード家の畑はのどかな風に包まれていた。
ミーナは猫たちと一緒に、きゅうりを収穫しては「長い!ながーいのですっ!」と転がして遊んでいた。
ルークはそれを横目に、土に指を入れては種の成長を確かめている。
「……発芽、順調。あとは朝晩の温度か……」
ミーナは、きゅうりを掲げてはしゃいだ。
「にぃに〜! このきゅうり、ミーナの腕より長いのですっ!」
ルークは土をならしながら苦笑する。
「ほんとだな。武器にもなりそうだ」
ミーナがきゅうりを得意げに掲げたそのとき、遠くの小道から――
カラン、カラン、と、木製の車輪の音が聞こえてきた。
「……ん?」
「にゃっ?」
現れたのは、ひとつの荷馬車。
ホロも装飾もない、ただ木材を組んだだけの実用的なもの。
けれど、積まれた荷物の上にシーツやランプが見える。
荷馬車の前には、引っ越しの疲れが少し見える、でもやさしそうな顔立ちの若い母親。
手綱を引いているのは、精悍な顔の30歳前後の父親。そして、後ろに仲良く腰かけていたのは――
「……おにぃ、見てっ! 子ども、乗ってるのです!」
「ほんとだ。二人……」
一人はルークより少し年上の赤毛の女の子。髪をきちんと左右に分け、三つ編みにして麦藁帽子をかぶっている。
顔には健康的なそばかすが浮かび、口角がきゅっと上がって、なにやら元気そうな印象。
もう一人は、ミーナと同じくらいの小さな男の子。やや無表情で、首を傾げながら周囲をきょろきょろと観察している。
二人とも、この村では見かけない顔だ。
「おい、ミーナ」
「なにですかっ?」
「……あの子、赤毛に三つ編み。まさか、“赤毛のアン”……?」
ルークが呟いたのを聞いて、猫の“くろ”が「にゃぁ?」と首を傾げた。
すると、馬車のそばで母親らしき女性が娘の名前を呼んだ。
「アニー、そこから降りて。もうすぐよ」
「……えっ」
「……アニー……」
「……あぁぁ、そっちかぁ(笑)!?」
「にゃー!(コケたな)」
ルークの肩が思わず落ちる。猫たちはくすくす笑っている(ように見える)。
◆新しい家族、そして村人たち
馬車が村の広場に入ってくると、数人の近所の人々が出てきて声をかけた。
「ようこそようこそ、こんな辺鄙なところへ……」
「いやいや、以前ここに立ち寄ったとき、荒れていた森の一角が開かれ始めていてね。話を聞いたら畑にする予定だっていうじゃないか。それで……この土地で“農業”を真剣にやってみたくなったんだ」
父親がそう答えたとき、ルークが小声で呟いた。
「……なるほど。それで最近、父さんがいない日が多かったのか」
猫たちもぴくっと耳を動かす。
◆はじめましての、友だち
ミーナはというと――新しい子どもたちに興味津々で、
荷馬車のそばを走り抜けていったかと思えば、ぴたりと赤毛の少女の前で止まった。
「こんにちは! ミーナですっ! この村の、いちばんおてんばな子ですっ!!」
「アニーよ。アニー・ブライト。あなた……かわいい帽子ね」
「これはね、おにぃに作ってもらったのですっ!!」
「まあ、素敵……」
すぐに、ふたりの間には何やら共鳴する空気が生まれた。
アニーは礼儀正しいが、芯がしっかりしていて好奇心旺盛。
ミーナはいつも通りの元気いっぱいで、質問攻め。
男の子の方はというと、黙ったままアニーのスカートの裾にぎゅっとつかまっている。
「この子は弟のリックよ。まだ人見知りで……でも、猫は好きなの」
「にゃー!(本当か!?)」
「にゃん!(試してみよう!)」
猫たちがぞろぞろと彼に近づくと――
「……にゃ……」
ぽそりと、リックが小さな声で返した。
すると猫たちがざわめく。
「にゃあ!?(しゃべった!?)」
「にゃにゃー!?(翻訳できるのか!?)」
「にぃに、リックはね、ねこ語ができるのですっ!!」
「いや……それは早計だろ……」
◆にぎやかな夏のはじまり
こうして、赤毛のアニーとその一家は村の新しい仲間として迎えられた。
畑を耕す父、野菜料理の得意な母、元気な姉アニーと無口な弟リック。
そして何より、村でのミーナの毎日はますますにぎやかになった。
「これからアニーと、おべんとう作るのですっ!」
「次はリックと、かくれんぼなのですっ!」
「にゃー!(おれたちの出番は!?)」
猫たちは少し不満げだったが……。
「まあ、少しずつ慣れていこうな」
ルークは青空を見上げながら、笑った。
こうして、新しい夏が――新しい家族とともに始まったのであった。