ミーナ、畑に巨大スイカを作るのです! 〜でも……割れないのです!?〜
ある夏の日、グランフィード家の畑で――
「にぃに! ミーナ、今年はでっかいスイカを作るのですっ!」
突如ミーナがそう宣言したのは、朝食の最中だった。
麦パンを頬張ったまま、猫の“しろ”が「にゃっ」と驚く。
ルークはカップを置きながら、片眉を上げた。
「スイカ……? まぁ、夏だしな。いいんじゃないか」
「でもただのスイカじゃないのです! ミーナすぺしゃるで、どーん! って大きくて、まるくて、おどろくスイカを作るのですっ!」
「……“どーん”って何だ」
やる気まんまんのミーナに、猫たちがぞろぞろと集まり、なぜか三角巾を頭に巻いてやる気ポーズ。
「にゃー!(栽培班、配置にゃ!)」
「にゃにゃ!(水まき係、出動っ!)」
◆スイカ育成、開始!
こうして始まった“でっかいスイカ計画”。
ミーナは毎朝、トマトの横に並ぶスイカの苗に愛の声をかける。
「おおきくなってね、すいかちゃん……!」
肥料の代わりに野菜の皮をせっせと埋める。
「にぃにが言ってたのです。土が元気になるって!」
猫たちも草むしりや見回りをしてくれた(たまに昼寝を挟む)。
◆そして伝説のスイカ、実る!
やがて――
「にぃに! 見てくださいっ! すいかちゃんが……すごいのですっ!」
畑の真ん中に、どんと鎮座する巨大スイカ。
大人が両腕を広げても足りないほどのサイズ。
丸くつやつやとしたその姿に、猫たちも大興奮。
「にゃー!(すいか!)」
「にゃっ!(祭りだーっ!)」
「これ、どう見ても普通じゃないな……。で、食べるの?」
「はいっ! スイカ割りなのですっ!!」
◆だが、割れない
ミーナが布を巻き、竹の棒を手にスイカに立ち向かう。
「くらえなのですっ!!」
――がつん。
「……いてっ」
棒が跳ね返ってミーナの額にぽこり。
猫たちも交代で挑むが、スイカはピクリともせず。
「にゃー(固い)」
「にゃにゃー(中身入ってる?)」
「これは……やりすぎたな」ルークが渋い顔をする。
しょんぼりと座り込むミーナ。
「おにぃ……せっかく、頑張ったのに……」
そのとき。
◆父、現る!
「ふむ。どうやら盛大にやったな」
重々しい声が畑に響き、草むらの向こうから現れたのは、
グランフィード家の父・アベルだった。
「ちょっと目を離したすきに、家の畑が予想外の光景でな……」
笑いながらアベルはスイカの前に立つ。
「にゃっ!(誰!?)」
「にゃー!(においがルークっぽい!)」
「にゃ!!(出番の少ない人にゃぁ)」
「ちちぃ! 久しぶりなのですっ!!」
「おう、ミーナ(久しぶりって…悲しいな)。……これはお前が育てたのか」
「はいっ! がんばったのです! でも……割れないのです……」
アベルは黙ってスイカを手で叩く。
こつん、こつん……やがて、腰のナイフを取り出し、
ふっと息を吐くと──
「……せいっ!!」
パカッ!!
スイカの上部がきれいに開いた。
中から、甘い香りと共に鮮やかな赤い果肉がぎっしり。
「わ、われたのですっ!! ちち!!流石なのです、すごいのですーっ!!」
◆スイカパーティ!
ルークも驚きながら、アベルに頭を下げる。
「父さん、ありがとう。さすがだよ」
「フッ。このくらいは父の威厳としてな」
スイカは切り分けられ、庭で即席のパーティが始まった。
猫たちは種飛ばしに興じ、ミーナはスイカに顔を突っ込む勢いで食べる。
「ミーナ、顔ベタベタだぞ」
「でもおいしいのですっ! がんばった味なのですーっ!」
アベルも笑いながら、静かにその様子を見守っていた。
「……まったく、にぎやかな娘に育ったな」
「えへへっ。ミーナ、すいか姫なのですっ!」
◆夏の終わりに、伝説の思い出
こうして、グランフィード家に刻まれた“巨大スイカ事件”は、
家族の笑顔とともに、甘く瑞々しい記憶として残るのだった。