ミーナと銀の靴と不思議の国の魔法使い 第5話「総帥の影と、えらい魔法使いの真実」
広大な花畑の奥、虹色の霧を抜けた先に、その城はあった。
「……あれが、“えらい魔法使い”のお城、なのです!」
ミーナが声を弾ませて叫ぶ。塔の上から見るようにそびえたつそれは、金と白を基調にした荘厳な建物で、どこか浮いているような、不思議な輝きを放っていた。
「にゃ……何か変だにゃ」
「静かすぎるにゃ……」
猫たちの警戒は鋭い。案山子もブリキの騎士ティンも、武器(棒と斧)を構えて歩く。
アレンが杖を握りしめながら、低く言った。
「……ここ、結界が張られてる。優しい魔法じゃない。強い怒りの……誰かの意志だ」
「まさか……ギ○ン!? 死んだんじゃ……」
「残った“影”が、えらい魔法使いのところに……!」
ミーナは、じわりと冷たいものを感じた。
「……にぃに……助けてくれるかな……」
◆黒い影の玉座
大広間の玉座。
そこに座っていたのは──ギ○ン総帥だった。
いや、“ギ○ンだったもの”。
その姿は黒い霧となり、まるで玉座そのものに憑依しているように見える。
「フフフ……ミーナ……来たか……銀の靴を返せ……」
「やっぱりっ! ギ○ンの残留思念なのですっ!」
「残っていた魂のカケラが、魔法使いの結界を食らって暴走したのか……!」
「いけませんミーナ様!! やつの声に耳を貸しては──」
猫たちは円陣を組み、ミーナを囲む。
ブリキのティンが前に出て叫ぶ。
「ミーナは、誰にも渡さない!」
「……にゃーっ!!(ミーナは我らが姫にゃ!)」
ミーナはそっと一歩前に出た。
「ギ○ン……銀の靴は、返しませんのです!」
「なんだとぉぉぉお……!?」
「この靴は、“優しい魔女”の”空モモ…”じゃなかった、キ○リアさんにもらったものなのです!
にぃにのところに帰るための、たいせつな靴なのですっ!!」
◆銀の靴の力、覚醒!
ギ○ンの影が渦を巻いて襲いかかる──!
「ミーナ様ぁぁぁ!!」
「ぎゃーっ!! きゃあああぁぁぁああ!! いやぁぁぁっ!!!」
(↑ミーナ絶叫中)
しかし──そのとき、ミーナの足元がまばゆく輝いた。
「これは……っ!?」
「銀の靴がっ……!」
その靴がきらめき、放たれた光が黒い霧を吹き飛ばす。
アレンが叫ぶ。
「“希望の願いを持つ者のための靴”……それが銀の靴の真の力……!」
光の柱がギ○ン総帥の影を打ち砕き、大広間の天井が解放される。
光が差し込み、玉座の奥に隠されていた“えらい魔法使い”が姿を現す──
「やあ、よく来たね、ミーナちゃん」
「……にぃに!?」
◆にぃに、いた
玉座の奥にいたのは──ローブ姿のルークだった。
「ルーク! にぃに!?」
「……にぃにって言われるのは初めてだけど、まあ、そういうことにしておこうか」
実はこの“えらい魔法使い”、本物のルークではなく──この不思議な国が“にぃに”を元に創り出した“理想の存在”だったのだ。
「君の“帰りたい”という想いが、銀の靴に力を与えて、ここまで連れてきたんだ」
「じゃあ……かえれるの?」
「もちろん。君には、帰る場所があるんだ。(こんな嬉しいことはない。)家族も、猫たちも、みんなが待ってる」
◆別れと再会と、かわいいミーナ
旅の仲間たちは、少し寂しそうな顔をした。
案山子もティンもアレンも、猫たちも、どこか不安そうにしていた。
「……帰るの、さみしいです……でも……」
「でも?」
「わたし……またみんなに会える気がするのです!」
ミーナはきっぱりと言った。
すると案山子がぽそりと。
「そりゃそうだ。君、たぶん次は“空飛ぶ畑”とか作るよ」
「にゃ(ミーナは何度でも事件を起こすにゃ)」
ルークが笑った。
「じゃあ、帰ろうか。ミーナ」
ミーナは、銀の靴をトン、トンと二回鳴らす。
──その瞬間、世界が白い光に包まれた──
◆帰ってきた日常
「……にぃに……?」
ミーナが目を開けると、そこはいつもの庭。
ミーナ・バオア・クーが元通りの位置に戻っている。
「ミーナー!? どこ行ってたんだよ!? 心配したぞ!」
ルークが駆け寄ってきた。
「にぃにっ!! にぃにぃにぃぃっ!!」
(→嬉しすぎて語彙が崩壊)
「……ほら、泣くなよ。おかえり」
「えへへ……ただいま、なのですっ!」
猫たちもわらわらと寄ってきて、全員無事に帰還。
「にゃー」「にゃにゃー!」「にゃう!」
それを見て、ルークがぽつり。
「……オズの魔法使いでも見てたのか?」
「なにそれ?」
「……まあ、いいや」
こうして、ミーナと猫たちの不思議な大冒険は幕を閉じた。
だけど──
ミーナの銀の靴は、いまだにたまに、きらりと光るのだ。
なにか、また事件が起きるかもしれない。
でも──
「そのときは、またみんなで冒険するのですっ!」
かわいいミーナは、今日も元気いっぱいである。
(おしまい)